☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。

shyrock作 女武者受難
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【登場人物】
真田ありさ(十八歳)
 真田幸村の長女。幼少期は生まれ故郷の信濃上田で穏やかな日々を送るが、関ヶ原の戦いにおいて西軍が敗北したことにより親豊臣の父幸村は高野山に幽閉され、幼いありさもまた両親と引き離されてしまい大坂城預かりと身となった。そして13年の歳月が流れ、ありさは息も飲むほどの美しい娘に成長したが、琴や裁縫などの女性としてのたしなみよりも武芸を好み、その腕前は城下の評判となっていた。

真田幸村(四十七歳)
 信濃上田城主真田昌幸の次男で父とともに豊臣秀吉に仕え小田原城攻めに参加。秀吉死後関ヶ原の戦いでは西軍に味方し、居城上田城に拠って、東山道を西上して関ヶ原の戦いに参加しようとする徳川秀忠二万の大軍をわずか三千の手兵で阻止し勇名を天下に轟かせた。 しかし武運なく関ヶ原での西軍の敗北により高野山に幽閉の身となった。

猿飛佐助(二十歳)
 戸隠の山中で猿と遊んでいるところ、戸澤白雲斎に見出されてその弟子となる。のちに甲賀流忍者となるが、甲賀の里ではなく信濃の角間渓谷(真田忍者の修行場)で三年間修行を行ない、優れた忍術を身に着け幸村に仕える。

木村重成(二十二歳)
 秀頼四天王の一人。豊臣秀頼に近侍して小姓を務め、元服後は秀頼の全幅の信頼をうけ長門守と称した。色白の美丈夫で、立ち振る舞いや言動は涼やかで、礼儀作法を身につけ、剣術・馬術に長けた武将。

山賊首領・徳太郎<あご髭の男>
 紀北を根城として集団生活をし、街道を往来する人々や物資を襲う山賊(追いはぎ)の首領。粗暴にして冷酷かつ変態。金と女以外に興味なし。

山賊手下・平吉<眉間に刀傷のある男>
 生来の博打好き。賭場でいかさまが見つかりやくざ者から追われ、高野山に逃げ込み山賊の仲間となる。

山賊手下・捨蔵<黒い眼帯をつけた男>
 元々は下級武士だったが藩の貯蔵米をくすねたことから藩を追われ山賊に身を落とす。

山賊手下・弥平<丸禿の男>
 とにかく根気のない男でどんな仕事も一ケ月と続かず、転々としているうちにいつしか山賊に。

山賊手下・茂兵衛<鉢巻の男>
 腕は立たないが口が達者で世渡り上手。


第二話 “山賊五人衆”

 男たちは口々にありさを愚弄する。
 あご髭の男、鉢巻の男、眉間に刀傷のある男、鍔風の黒い眼帯をつけた男、丸禿の男など、五人のごろつき風の男たちが肩をいからせて歩み寄ってきた。
 ありさは一瞬怯んだが、彼らの威嚇に負けてはならないと、あえて虚勢を張ってみせた。

「貴様たちは何者だ」
「さあて、いったい何者だろうな。高野山のキツネかもな~、コンコン!」
「むむっ、ふざけるな!早くそこをどけ、先を急いでおる!」
「がははははは~!そう怒るなよ~。ところでこんな夜更けに急いでどこに行くつもりかな?高野参りには見えないが。なあ?若武者さんよ」

 幸い彼らの目にはありさが男と映っているらしい。
 ありさはわざと平静を装い、毅然とした態度で臨んだ。

「貴様たちに言う必要などない」
「ふん、なんだよ、偉そうにしやがって!」

 前方のあご髭の男とやり取りをしているうちに、いつの間にか二人が後に回り込み、ぐるりとありさを男たちが取り囲んでいた。
 いくら腕に自信があるとは言っても、相手は海千山千の荒くれども。しかも真っ暗闇は土地勘のある彼らに有利である。
 それでもここは絶対に先へ進まねばならない。父真田幸村のいる庵へ急がねばならない。

 ありさは口を真一文字に結ぶと、剣を引き寄せ鯉口を切って見せた。

「ん?おまえ、俺たちを切ろうと言うのか?」
「……」
「面白いじゃねえか。切れるものなら切ってみやがれ!」
「くっ……」

 ありさを取り囲む輪が次第に狭まっていく。
 男たちは古びた剣や鎌など思い思いの武器で身構えている。

「もし運良くお前がおれたちの誰かを切ったとしても、その隙にお前も叩き切ってやるから覚悟してろよ」

 あご髭の男が不敵な笑みを浮かべ凄んで見せた。

「なあ、悪いことはいわねえよ。今のうちなら勘弁してやるから、身包み脱いで置いて行きやがれ」

 彼らは物盗りが目的なのだ。

(冗談じゃない。ここで衣を脱げば、私が女だと言うことがばれてしまうではないか。ここは絶対に突破しないと……)

「断る」
「なんだと?金と衣だけで許してやろうと言ってるのに、俺たちに刃向うのつもりか?へ~、いい根性してやがるな~。おい、野郎ども!この若武者をやってしまえ!」

 親分とおぼしきあご髭男の号令で、突然、正面にいる鉢巻の男が鎌を振りかざしてありさに襲い掛かってきた。

(カチャッ!)

 ありさは目にも止まらぬ速さで剣を抜いた。
 白刃一閃、鎌を握った男の悲鳴が聞こえた。

「ぎゃぁ~~~~~~~~~~!!」

 男は絶叫とともに地面に倒れ込んでしまった。
 
 ありさはさらに剣を中段に構えた。中段の構えは、別名『正眼の構え』とも言われており、攻防自在で、相手のどんな動きにも対応しやすい構えと言われている。

 男たちの顔がにわかにこわばった。

「こ、こいつ、本気でやりやがった!く、くそ!やっちまえ~!!」

 続いてあご髭の男が剣で切りつけてきた。
 おそらくこの男が親分だろう。

(ガシッ!)

 男の剣をありさはがっちりと受け止めた。
 剣が合わさり、男がすごい力で圧してくる。
 刃は欠け落ち剣はまともな代物とは言えないが、そこそこ腕も立ち、何より力が半端ではない。
 ありさは、相手をはねのけようと試みたが、力ではとても敵いそうになかった。
 ありさはあご髭の男に圧倒されて、一歩、二歩と後退していく。

(く、くっ!何と言う馬鹿力!でもここは絶対に負けるわけにはいかないわ!ここを突破して早く父上に密書を届けなければ……)

 そう思った矢先、ありさの頭上に何やら網のようなものが落ちてきた。
 投網のようだ。

「な、何をするっ!?」

 投網は元々漁具として生まれた物だが、山間部の狩人が網を小型化して動物の捕獲用に用いている。
 一度網に絡められてしまうと行動力が奪われてしまい、内側から引き裂こうとしても思うように剣が振るえない。

「ひ、卑怯者!!ここから出せ!!」
「掛かったか~、愚か者め!!」

 ありさは懸命にもがくが、もがけばもがくほど網は身体に絡んでくる。
 四人の男たちが一斉にありさに飛び掛かり、剣を奪われてしまった。

「うわっ!!」

 網は取り払われたが、丸禿の男がすごい力で羽交い絞めにしているので身動きが取れない。

「は、放せ!」
「暴れるな!大人しくしろ!」

 眉間に刀傷のある男が胴体に荒縄を巻き付ける。

「何をする!やめろ!」
「怪我をしたくなかったらじっとしてろ!」

 ありさを縛り付ける手下を余所に、あご髭の男は余裕綽々でありさから奪った品定めをしている。

「ほう~、結構いい剣じゃねえか。これは貰っといてやるぜ。おい、お前たち!その若武者を身包み引っ剥がしちまいな!その着物なら結構いい値で売れるぜ!」
「へえ~、お頭!」
「あいよ!」

 抵抗を避けるためありさの足首にも縄が巻き付けられた。
 括りつけられた縄が引っ張られる。

「うわっ!」

 平衡感覚を失ったありさは思わず横転してしまう。
 ありさを押さえつけようとした眉間に傷の男の指が、図らずもありさの胸元に触れた。

「あれ……?」

続く→女武者受難 第三話 “若武者は女!?”


戻る→女武者受難 第一話 “夜更けの高野街道”


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