☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。
shyrock作 マッチ売りの少女マリア(改)

shyrock作 マッチ売りの少女マリア(改)

前編
それはそれはとても寒い日でした。
雪が降り、辺りもすっかり暗くなり、もう夜になっていました。
今日は大晦日。今年最後の夜でした。
この寒さと暗闇の中、一人の哀れな少女が道を歩いていました。
彼女は名前をマリアと言いました。
頭には帽子も頭巾もかぶらず、足に何も履いていません。
家を出る時には確かに靴を履いていました。
でも、靴は何の役にも立ちませんでした。
それはとても大きな靴で、 これまでマリアのお母さんが履いていたお古でした。
たいそう大きい靴でした。
かわいそうに、道を大急ぎで渡った時、マリアはその靴をなくしてしまいました。
馬車がすごい速さで走ってきたからです。
靴はどこにも見つかりませんでした。
マリアは仕方なく裸足で歩いていきました。
小さな小さなかわいい足。
足は冷たさのせいでとても赤くなっておりました。
マリアは古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、 手に一たば持っていました。
日がな一日、誰もマリアから買ってくれませんでした。
僅か1ゴールドだってマリアにあげる者はおりませんでした。
寒さと空腹で震えながら、 マリアは歩き回りました。
まさに悲惨を絵に描いたようです。
かわいそうなマリア……
ひらひらと舞い降りる雪がマリアの金色の長い髪を覆いました。
その髪は首の周りに美しくカールして下がっています。
でも、もちろん、マリアはそんなことなんか考えていません。
どの窓からもローソクの輝きが広がり、ローストチキンを焼いている香ばしい香りがしました。
マリアは街角のある家の軒下に座り雪をしのぎました。
軒下だと少しはましだからです。
夜が更けて冷え込みもひどくなって来ました。
手をこすり合わせても、寒さはおさまりません。
(帰りたい……)
けれど、家に帰るなんてことはできません。
マッチはまったく売れていないし、 たったの1ゴールドも持って帰れないからです。
このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。 それに家だって寒いんです。
マリアの小さな両手は冷たさのために、もうかじかんでいました。
(ああ!寒い!)
束の中からマッチを取り出して壁に擦りつけて、手を温めれば、 それがたった1本のマッチであっても、つかの間、寒さを凌げるでしょう。
マリアは1本取り出しました。
(シュッ!)
何という輝きでしょう。
何とよく燃えることでしょう。
温かく、輝く炎で、 上に手をかざすとまるでローソクのようでした。
素晴らしい光です。
小さなマリアはまるで大きな鉄のストーブの前に実際に座っているような気持ちになりました。
そのストーブにはピカピカときらめく真鍮(しんちゅう)の足があり、てっぺんには真鍮の飾りがついていました。
その炎は周りに祝福を与えるように燃えました。
いっぱいの喜びで満たすように、炎は周りを温めます。
マリアは足も伸ばして、温まろうとしました。
しかし、小さな炎は消え、ストーブも消えてしまいました。
残ったのは、手の中の燃え尽きたマッチだけでした。
マリアはもう一本壁に擦ろうとしました。
その時でした。
1人のかっぷくのよい男性が現れてそっと囁きました。
「お嬢ちゃん、どうしてマッチを燃やしているの?」
誰もマッチを買ってくれないばかりか、声すら掛けてくれないと、諦めかけていたマリアは大変驚きました。
つぶらな瞳でじっと声の主を見つめました。
男性は身なりからして、おそらくどこかのお金持ちのようです。
シルクハットをかぶり、鼻の下には髭をたくわえ、ロイド眼鏡を掛け、優しそうな表情で微笑んでいました。
「手が冷たくて冷たくて……温まりたかったの」
マリアは凍えた声でポツリと答えました。
少女がどうしてこんな夜更けまで街角で立っているのか、男性はおおよそ察知しました。
そしてそっとつぶやきました。
「そうなんだ。かわいそうに……。持っているマッチが売れないと家に帰れないんだね?」
「うん、そうなの」
マリアは泣きそうな顔でそう答えました。
「じゃあ、マッチはおじさんが全部買ってあげるよ」
「全部?全部買ってくれるの?まあ、嬉しい」
「その代わりひとつだけおじさんのお願いを聞いてくれるかな?」
「お願い?うん、いいけど、どんなお願いなの?」
「しばらくの間、目をつむってくれるだけでいいんだよ」
「目をつむっていればいいの?」
「そう」
「うん、わかった」
「ああ、そうだ。これ、マッチの代金だよ」
男性は分厚い財布の中から紙幣を数枚取り出して、マリアに手渡しました。
もらったお金は代金の2倍以上ありました。
「まあ、すごくたくさん!おじさん、ありがとう」
これで家に帰っても親に叱られなくて済む、マリアはそれだけで十分に嬉しかったのです。
続く→マッチ売りの少女マリア(改) 後編
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それはそれはとても寒い日でした。
雪が降り、辺りもすっかり暗くなり、もう夜になっていました。
今日は大晦日。今年最後の夜でした。
この寒さと暗闇の中、一人の哀れな少女が道を歩いていました。
彼女は名前をマリアと言いました。
頭には帽子も頭巾もかぶらず、足に何も履いていません。
家を出る時には確かに靴を履いていました。
でも、靴は何の役にも立ちませんでした。
それはとても大きな靴で、 これまでマリアのお母さんが履いていたお古でした。
たいそう大きい靴でした。
かわいそうに、道を大急ぎで渡った時、マリアはその靴をなくしてしまいました。
馬車がすごい速さで走ってきたからです。
靴はどこにも見つかりませんでした。
マリアは仕方なく裸足で歩いていきました。
小さな小さなかわいい足。
足は冷たさのせいでとても赤くなっておりました。
マリアは古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、 手に一たば持っていました。
日がな一日、誰もマリアから買ってくれませんでした。
僅か1ゴールドだってマリアにあげる者はおりませんでした。
寒さと空腹で震えながら、 マリアは歩き回りました。
まさに悲惨を絵に描いたようです。
かわいそうなマリア……
ひらひらと舞い降りる雪がマリアの金色の長い髪を覆いました。
その髪は首の周りに美しくカールして下がっています。
でも、もちろん、マリアはそんなことなんか考えていません。
どの窓からもローソクの輝きが広がり、ローストチキンを焼いている香ばしい香りがしました。
マリアは街角のある家の軒下に座り雪をしのぎました。
軒下だと少しはましだからです。
夜が更けて冷え込みもひどくなって来ました。
手をこすり合わせても、寒さはおさまりません。
(帰りたい……)
けれど、家に帰るなんてことはできません。
マッチはまったく売れていないし、 たったの1ゴールドも持って帰れないからです。
このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。 それに家だって寒いんです。
マリアの小さな両手は冷たさのために、もうかじかんでいました。
(ああ!寒い!)
束の中からマッチを取り出して壁に擦りつけて、手を温めれば、 それがたった1本のマッチであっても、つかの間、寒さを凌げるでしょう。
マリアは1本取り出しました。
(シュッ!)
何という輝きでしょう。
何とよく燃えることでしょう。
温かく、輝く炎で、 上に手をかざすとまるでローソクのようでした。
素晴らしい光です。
小さなマリアはまるで大きな鉄のストーブの前に実際に座っているような気持ちになりました。
そのストーブにはピカピカときらめく真鍮(しんちゅう)の足があり、てっぺんには真鍮の飾りがついていました。
その炎は周りに祝福を与えるように燃えました。
いっぱいの喜びで満たすように、炎は周りを温めます。
マリアは足も伸ばして、温まろうとしました。
しかし、小さな炎は消え、ストーブも消えてしまいました。
残ったのは、手の中の燃え尽きたマッチだけでした。
マリアはもう一本壁に擦ろうとしました。
その時でした。
1人のかっぷくのよい男性が現れてそっと囁きました。
「お嬢ちゃん、どうしてマッチを燃やしているの?」
誰もマッチを買ってくれないばかりか、声すら掛けてくれないと、諦めかけていたマリアは大変驚きました。
つぶらな瞳でじっと声の主を見つめました。
男性は身なりからして、おそらくどこかのお金持ちのようです。
シルクハットをかぶり、鼻の下には髭をたくわえ、ロイド眼鏡を掛け、優しそうな表情で微笑んでいました。
「手が冷たくて冷たくて……温まりたかったの」
マリアは凍えた声でポツリと答えました。
少女がどうしてこんな夜更けまで街角で立っているのか、男性はおおよそ察知しました。
そしてそっとつぶやきました。
「そうなんだ。かわいそうに……。持っているマッチが売れないと家に帰れないんだね?」
「うん、そうなの」
マリアは泣きそうな顔でそう答えました。
「じゃあ、マッチはおじさんが全部買ってあげるよ」
「全部?全部買ってくれるの?まあ、嬉しい」
「その代わりひとつだけおじさんのお願いを聞いてくれるかな?」
「お願い?うん、いいけど、どんなお願いなの?」
「しばらくの間、目をつむってくれるだけでいいんだよ」
「目をつむっていればいいの?」
「そう」
「うん、わかった」
「ああ、そうだ。これ、マッチの代金だよ」
男性は分厚い財布の中から紙幣を数枚取り出して、マリアに手渡しました。
もらったお金は代金の2倍以上ありました。
「まあ、すごくたくさん!おじさん、ありがとう」
これで家に帰っても親に叱られなくて済む、マリアはそれだけで十分に嬉しかったのです。
続く→マッチ売りの少女マリア(改) 後編
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