☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。
shyrock作 ありさ 土蔵の濡れ人形

<登場人物>
ありさ……十六歳。瀬戸内海のとある寒村に生まれ育つ。気立ても器量もよく村では大変評判のよい娘だったが、貧しさから口べらしのため奉公に出されてしまう。彼女を待ち受ける過酷な運命とは……。
霧島九左衛門……五十三歳。大阪の船場で呉服問屋を営む。妻は結核のため高石の別宅で療養中。大の女好きだが並みの女好きではなく倒錯した性的嗜好を持つ。
庄吉……四十五歳。番頭。仕事はよくできるが、頭が固く融通が利かないところがある。だが本当は……
よね……五十八歳。上女中。炊事、掃除、その他家事一切を仕切っている。
ふみ……二十歳。下女中。上の者におべっかを使う。ありさを妬み時々意地悪をする。
音松……十九歳。丁稚。密かにありさに心を寄せている。優しい人柄だが少々そそっかしい。
利松……十八歳。丁稚。ありさに好意的。素直で人当たりがよく番頭や女中たちからも好かれている
shyrock作 ありさ 土蔵の濡れ人形

<登場人物>
ありさ……十六歳。瀬戸内海のとある寒村に生まれ育つ。気立ても器量もよく村では大変評判のよい娘だったが、貧しさから口べらしのため奉公に出されてしまう。彼女を待ち受ける過酷な運命とは……。
霧島九左衛門……五十三歳。大阪の船場で呉服問屋を営む。妻は結核のため高石の別宅で療養中。大の女好きだが並みの女好きではなく倒錯した性的嗜好を持つ。
庄吉……四十五歳。番頭。仕事はよくできるが、頭が固く融通が利かないところがある。だが本当は……
よね……五十八歳。上女中。炊事、掃除、その他家事一切を仕切っている。
ふみ……二十歳。下女中。上の者におべっかを使う。ありさを妬み時々意地悪をする。
音松……十九歳。丁稚。密かにありさに心を寄せている。優しい人柄だが少々そそっかしい。
利松……十八歳。丁稚。ありさに好意的。素直で人当たりがよく番頭や女中たちからも好かれている
第十八話「突然の訪問客」
富七は九左衛門がいる主の間へ飛んで行った。
主の間は店先から少し入った所にある。
九左衛門は売掛金台帳に目を通している最中であった。
「だんさん、えらいことですわ!」
「富七か。どないしてん?」
「へぇ、例の、例の……」
「なんやねん。落ち着いて喋らんか」
「山波商店の若旦那がいきなり店にやって来て、だんさんに会いたいと言うてますねん」
「なんやて!山波の若旦那山波淳三郎がわしに会いたいてか!?」
「はい、そうだす」
「わしに何の用やねん?」
「直接だんさんにお話したいそうで」
「ふうむ……」
「だんさんは留守や言うて、帰ってもらいまひょか?」
「居留守つこて帰ったとしても、次にまた来よったら今度は会わん訳にはいかんやろし。よっしゃ、しゃあない、隣の応接間に通ってもらいなはれ」
「へぇ、」
そもそも五月に起こった『投げ文騒動』は、九左衛門がありさを陥れるため、彼が画策した罠であった。
下女中のふみがありさに対し妬み心を抱いていることを知った九左衛門は、巧みにふみを利用し『ありさと淳三郎は恋仲』であるとでっちあげた偽の手紙を書かせ、夜陰に紛れて玄関先に投函したのであった。
その手紙を口実に九左衛門はありさを激しくなじり折檻をした。
ちなみに山波商店の若旦那山波淳三郎は憎らしいほどの美男子で、船場界隈ではちょっとした有名人であった。
九左衛門は淳三郎と親交があったわけではないが、ありさを罠に填める際、すぐに思いついたのが淳三郎の名前であった。
「お初にお目にかかります。父が道修町(どしょうまち)で薬問屋山波商店を営んでおりまして、わては長男の山波淳三郎と申します。どうぞお見知りおきを」
「おいでやす。わてが主の霧島九左衛門だす。山波商店さんと言えば薬問屋の中でも一、二を争うほどの立派なお店、そのご子息がわざわざご足労くれはって、一体どんなご用でっか?」
「へぇ、単刀直入に言わせてもらいますわ。お宅の店にありさと言う奉公人がいはりますな?」
「へぇ、確かにそういう名前の奉公人はおりまっけど、そのもん(者)が何か?」
「実は、そのありさはんとわてが、いつの間にやら恋仲ちゅうことになってるらしいんですわ。ところが、わてはそのありさはんとは全然面識がおまへんのや」
「なんとまあ!誰がそんな噂を立てたんやろ。それはえらいことでんなあ」
「霧島屋はんは誰がそんな嘘の噂を立てたか知りまへんか?」
「そんなんわてが知ってる訳がおまへんがな~」
「そうでっしゃろなあ……」
「せやけどほんま困りましたなあ」
「ほんま困ってまんねん。変な噂が流れてしもたもんで、あちこちで有らぬことを言われてしもて……」
「それは大変でんなあ」
「へぇ……そこで霧島屋はんにひとつ相談でんねんけど、この際、噂ついでに、ありさはんをわての嫁候補ちゅうことにして、とりあえずうちの店の奉公人として譲り渡して貰えまへんやろか?」
「なんやて!?ありさを譲り渡してくれと!?」
「あきまへんか?三か月間間奉公させてみて、嫁にするか、そのまま奉公人として置いとくかは三か月後に決めるちゅうことにしよと思いますねん」
「せやけど、そんなこと急に言われましてもなあ」
ありさを手放したくない九左衛門は、当然のごとく渋った。
淳三郎も簡単には引き下がらない。
「わてもお宅の大事な奉公人さんを只で譲ってくれと言うような厚かましいことは言いまへん。ここに五百円おます。どうかこれでありさはんを譲っておくれやす。悪いようにはしまへんよってに」
淳三郎は五百円を九左衛門の前に差し出し頭を下げた。
五百円と言えば大金である。家政婦を一年間雇えるほどの金額だ。
利に敏い九左衛門の心がざわめいた。
せっかく手中に収めた美少女ありさを手放したくない、さりとて苦労せずに大枚五百円を貰っておくのも悪い話ではない。
欲望の天秤が激しく左右に揺れ動いた。
まもなく天秤は静止し腹が決まったようで、九左衛門はニコニコ顔でつぶやいた。
「よろしおます。五百円でありさを譲ることにしまひょ。ただし譲るのは一か月後ちゅうことでどないだすか?」
九左衛門は淳三郎の表情を伺った。
九左衛門とすればすぐに手放すのは惜しい。せめてこの一か月間たっぷりとありさを凌辱し続けて甘い蜜を吸おうと考えた。
「あきまへん。この五百円は手切れ金のようなものだす。あんさんが五百円を受け取りはった時点で、ありさはんはわてのもんだす」
「そ、そ、そんな性急な……いくら何でもそれは無茶でっせ!」
「何が無茶でっか!ありさはんとわてが恋仲やなんて嘘の話をでっちあげたうえに、ありさはんをいじめ倒したこと、公にしまひょか!?わては新聞社の友人もおりまんねん。何やったらこの話を新聞社に言いまひょか!?」
淳三郎は顔を紅潮させて激怒した。
世間に流布されたら九左衛門としても信用が台無しになってしまう。
さすがの九左衛門も狼狽の色を隠し切れず、床に頭を着けただひたすら謝るばかりであった。
続く→ありさ 土蔵の濡れ人形第2章 第十九話(最終話)「さらば霧島屋」
戻る→ありさ 土蔵の濡れ人形第2章 第十七話「竹尺尻打ち」
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富七は九左衛門がいる主の間へ飛んで行った。
主の間は店先から少し入った所にある。
九左衛門は売掛金台帳に目を通している最中であった。
「だんさん、えらいことですわ!」
「富七か。どないしてん?」
「へぇ、例の、例の……」
「なんやねん。落ち着いて喋らんか」
「山波商店の若旦那がいきなり店にやって来て、だんさんに会いたいと言うてますねん」
「なんやて!山波の若旦那山波淳三郎がわしに会いたいてか!?」
「はい、そうだす」
「わしに何の用やねん?」
「直接だんさんにお話したいそうで」
「ふうむ……」
「だんさんは留守や言うて、帰ってもらいまひょか?」
「居留守つこて帰ったとしても、次にまた来よったら今度は会わん訳にはいかんやろし。よっしゃ、しゃあない、隣の応接間に通ってもらいなはれ」
「へぇ、」
そもそも五月に起こった『投げ文騒動』は、九左衛門がありさを陥れるため、彼が画策した罠であった。
下女中のふみがありさに対し妬み心を抱いていることを知った九左衛門は、巧みにふみを利用し『ありさと淳三郎は恋仲』であるとでっちあげた偽の手紙を書かせ、夜陰に紛れて玄関先に投函したのであった。
その手紙を口実に九左衛門はありさを激しくなじり折檻をした。
ちなみに山波商店の若旦那山波淳三郎は憎らしいほどの美男子で、船場界隈ではちょっとした有名人であった。
九左衛門は淳三郎と親交があったわけではないが、ありさを罠に填める際、すぐに思いついたのが淳三郎の名前であった。
「お初にお目にかかります。父が道修町(どしょうまち)で薬問屋山波商店を営んでおりまして、わては長男の山波淳三郎と申します。どうぞお見知りおきを」
「おいでやす。わてが主の霧島九左衛門だす。山波商店さんと言えば薬問屋の中でも一、二を争うほどの立派なお店、そのご子息がわざわざご足労くれはって、一体どんなご用でっか?」
「へぇ、単刀直入に言わせてもらいますわ。お宅の店にありさと言う奉公人がいはりますな?」
「へぇ、確かにそういう名前の奉公人はおりまっけど、そのもん(者)が何か?」
「実は、そのありさはんとわてが、いつの間にやら恋仲ちゅうことになってるらしいんですわ。ところが、わてはそのありさはんとは全然面識がおまへんのや」
「なんとまあ!誰がそんな噂を立てたんやろ。それはえらいことでんなあ」
「霧島屋はんは誰がそんな嘘の噂を立てたか知りまへんか?」
「そんなんわてが知ってる訳がおまへんがな~」
「そうでっしゃろなあ……」
「せやけどほんま困りましたなあ」
「ほんま困ってまんねん。変な噂が流れてしもたもんで、あちこちで有らぬことを言われてしもて……」
「それは大変でんなあ」
「へぇ……そこで霧島屋はんにひとつ相談でんねんけど、この際、噂ついでに、ありさはんをわての嫁候補ちゅうことにして、とりあえずうちの店の奉公人として譲り渡して貰えまへんやろか?」
「なんやて!?ありさを譲り渡してくれと!?」
「あきまへんか?三か月間間奉公させてみて、嫁にするか、そのまま奉公人として置いとくかは三か月後に決めるちゅうことにしよと思いますねん」
「せやけど、そんなこと急に言われましてもなあ」
ありさを手放したくない九左衛門は、当然のごとく渋った。
淳三郎も簡単には引き下がらない。
「わてもお宅の大事な奉公人さんを只で譲ってくれと言うような厚かましいことは言いまへん。ここに五百円おます。どうかこれでありさはんを譲っておくれやす。悪いようにはしまへんよってに」
淳三郎は五百円を九左衛門の前に差し出し頭を下げた。
五百円と言えば大金である。家政婦を一年間雇えるほどの金額だ。
利に敏い九左衛門の心がざわめいた。
せっかく手中に収めた美少女ありさを手放したくない、さりとて苦労せずに大枚五百円を貰っておくのも悪い話ではない。
欲望の天秤が激しく左右に揺れ動いた。
まもなく天秤は静止し腹が決まったようで、九左衛門はニコニコ顔でつぶやいた。
「よろしおます。五百円でありさを譲ることにしまひょ。ただし譲るのは一か月後ちゅうことでどないだすか?」
九左衛門は淳三郎の表情を伺った。
九左衛門とすればすぐに手放すのは惜しい。せめてこの一か月間たっぷりとありさを凌辱し続けて甘い蜜を吸おうと考えた。
「あきまへん。この五百円は手切れ金のようなものだす。あんさんが五百円を受け取りはった時点で、ありさはんはわてのもんだす」
「そ、そ、そんな性急な……いくら何でもそれは無茶でっせ!」
「何が無茶でっか!ありさはんとわてが恋仲やなんて嘘の話をでっちあげたうえに、ありさはんをいじめ倒したこと、公にしまひょか!?わては新聞社の友人もおりまんねん。何やったらこの話を新聞社に言いまひょか!?」
淳三郎は顔を紅潮させて激怒した。
世間に流布されたら九左衛門としても信用が台無しになってしまう。
さすがの九左衛門も狼狽の色を隠し切れず、床に頭を着けただひたすら謝るばかりであった。
続く→ありさ 土蔵の濡れ人形第2章 第十九話(最終話)「さらば霧島屋」
戻る→ありさ 土蔵の濡れ人形第2章 第十七話「竹尺尻打ち」
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