☆この小説は「羞恥の風」のとっきーさっきーさんより投稿して頂いたものです。著作権はとっきーさっきーさんが持っておられます。

とっきーさっきー作 シャッター・チャンス2
シャッター・チャンス2



【登場人物 紹介】

  北原雪音(きたはら ゆきね)

本作品のヒロインで市内の高校に通う女子学生。
本人曰く、テレビに出てくる瞳キラキラアイドルより可愛いとのこと。
しっかり者で何事にも前向き。おまけに父親思い。ただし、お金には少々細かい。
祖父の代から続く老舗カメラ店『北原写真館』を頼りない父に代わって切り盛りしている。
母は3年前に実家に里帰りしたまま、それっきりに……



  北原武雄(きたはら たけお)

ヒロインである雪音の父親。
祖父の代から続く写真館を経営しているが、気弱な性格で尚且つ優柔不断。その割には趣味の写真撮影に関しては見境が無く、家族に相談もなしに自分専用の撮影スタジオを建設し多額の借金を抱えている。
そのため妻には逃げられ、3年前から娘である雪音とふたりで暮らしている。
2年前から『ピンクの傀儡子』というハンドルネームで、怪しげなブログサイトを運営しているらしいが……



  小野寺美帆(おのでら みほ)

前作『シャッター・チャンス』に登場した久藤律子の友人で、専業主婦をしている。
年令は20代後半。丸顔に大き目の瞳が特徴のチャーミングな女性。
夫との間で、ある事情を抱えて北原写真館を訪れることになるのだが……



  小野寺毅(おのでら たけし)

美帆の夫で、年令は彼女と同じく20代後半。
背が高く陽に焼けた精悍な顔立ちをしているが、その割に性格は少々気弱。
美帆と共に北原写真館を訪れる。



最終話 結果良ければ全てよし……かな♪




翌日……

「雪音、ちょっと小耳に挟んだ噂だから気にするなよ。お前、数学の授業中に居眠りして廊下に立たされたんだって?」

「ち、ちょっとその話、誰から聞いたのよ?!」

気にするなっていう方が無理な噂話に、あたしは上目遣いにお父さんを睨んだ。

「おっ! その目の吊り上げ方は……ふふふっ、本当に立たされちゃったんだ。それってやっぱり、昨日のアレのせいで寝不足かな?」

「な、何よ……アレって? まさか覗いてたの……?」

上目遣いだったジロリ目線が、指で輪っかを作ってシコシコさせるお父さんに難なく跳ね返される。
その指使いは女の子ではなくて男の子だって指摘したかったけど、今はそれどころじゃないの。
本気でお父さん、雪音の部屋を覗いて……?!

「キィィィッッ! 見たなァッ! この変態! 覗き魔! エロオヤジ!」

「わ、わあぁぁっっ! 誤解だよ、雪音! 知らない! 見てない! だからぁ……うぐっ! ぐがっ!」

アルバムが飛んだ。
カメラが飛んだ。
三脚が飛んだ。
夫婦喧嘩じゃないから、茶碗とお鍋は飛ばないけど、代わりに格好良すぎたお父さんの思い出も投げ飛ばそうとして……?

あらら、お父さんったらその前に目を回している。
う~ん、嫌疑不十分のまま拷問死させちゃったかも……反省です。



「あのぉ……構いませんか?」

「あ、はいぃ……いらっしゃいませ♪」

そんな時だった。
お店の入り口から、聞き慣れた声が聞こえた。
美帆さんが目を丸くしながら、嵐に遭遇した店の中を覗き込んでいる。

「おほほほ、ちょっと盗撮ネズミを退治しようと……どうもお見苦しいところを……」

あたしは、伸びたままのお父さんをツマ先でチョンチョンさせて蘇生させると、思いもよらない美帆さんの訪問に愛想笑いを浮かべた。
転がったカメラを跳ね除けると、とりあえずソファーに勧めた。

「あ、あの……そのぉ……」

だけど美帆さんは、腰を下ろしたものの口は重たかった。
両手をヒザの上に乗せたまま、頬を赤く染めて俯いている。

「あ、あははは……何か不都合なことでも有りましたでしょうか? このピンクの傀儡子も人の子。ツマラナイミスも、たまにしでかしますし……ねぇ、そうよね?」

「はい……その通りであります」

KOされた後遺症かな。
お父さんはネジが抜けたロボットのように、ぎこちなく答えて、カクっと首を項垂れている。

「い、いえ……そんなことは……」

「ということは、あたし共の不手際ではないと?」

美帆さんが深く大きく頷いてくれた。

「はあ~良かったというか、なんというか……」

あたしは宙を飛んで脱走をはかった札束の霊を回収すると、ほっと胸を撫で下ろしていた。

「実はあの……出来ちゃったんです」

「はあ、それは、それは……」

だから続く美帆さんの告白に、いい加減に返事をしていた。

「今日、産婦人科で検査してもらったら、お医者様が『おめでたです』って……」

「はい、それは、それは……えぇっ! 昨日、その毅さんとアレをして……もう赤ちゃん?!」

そしてようやく、事の重大さに気が付いた。
思わずあたしは、お父さんのホッペタをつねって、これが夢じゃないって実感を……

「いえ、そうではなくて、こちらへ伺う前に妊娠してたみたいで……どうもご迷惑をお掛けしました。本当は主人共々、お詫びをしなければならなかったのですが、生憎主人は手の放せない仕事がございまして……」

「いえいえ、そんなお気遣いなく……おほほほ、そうですよね。昨日アレして、さっそく赤ちゃんって……ないですよねぇ」

だったら、どうなのよ?
雪音とお父さんが、蚊の大群と盗撮小僧と闘った昨日の夜はどうなるのよ?!
お支払いは? これが回収不能になったら……
しゃっきん! シャッキン!! 借金!!!

「雪音さん? あの……顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」

「ううっ……あ、いえ……平気です。最近よくある貧血ですから」

あやうく、貧血を金欠と言い間違えそうになった。
もう一度大脱走した札束の霊が、雪音の前でふわふわと浮遊している。

「それでお支払いの方なんですが……?」

「お、お支払いですね……はははっ」

目の前が暗くなって左の胸が、キュッと絞め付けてきて……お父さん、雪音はもうサヨナラかもです。

「ちょうど銀行へ行く用事がございましたので、これはお礼の分も込めたものとして、お納めいただけないでしょうか?」

美帆さんは、セカンドバッグから紙の封筒を取り出すとテーブルの上に置いた。
結婚指輪の輝く左手の指が、封筒の中から帯封付きの現金をさり気なく覗かせる。

「あ、あぁぁ……はい、はいっ! 悦んで!」

宙を彷徨っていた札束の霊が、一斉に成仏した。
銀行印がまぶしすぎる福沢さんの集団が封筒の中へと吸い込まれて、雪音の身体も札束の後光に照らされて全回復しちゃった。

「それと差し出がましいお願いなんですが、主人が管理しているサイトに『ピンクの傀儡子様』のサイトをリンクさせてもらえないでしょうか?
私はパソコンとかインターネットに詳しくないのですが、主人が申すには1日あたり1万人ほどのアクセスがあるとかで、ぜひにと」

「は、はあ……少々趣味の悪いサイトではございますが……」

「いやぁ、毅さんはお目が高い。僕のサイトの価値を良く理解しておられる。はははっ、早速相互リンクさせていただきますよ」

雪音に続けてお父さんも全回復しちゃった。
頭のてっぺんに大きなタンコブをこしらえたまま、目をキラキラさせて早速パソコンを立ち上げている。

あたしは、そんなお父さんを見つめた。
お腹に手のひらを当てて幸せを満喫している美帆さんを眺めた。
最後に、瞬間暴風にも耐え抜いてくれた『北原写真館』を見回した。

結果良ければ全て良し♪
遠回りして、崖から落っこちて、ジャンプして、ついでにワープして……
雪音とお父さんの人生って、いつもジェットコースターに乗っているみたいだけど、まあ、それも有りってことでしょ。

お父さん、今夜はパァーっと張り込んで、特上の天ぷらそばでも出前してもらおうよ。
お向かいの『そばや並木』でね♪

夕陽が差し込む、自称レトロチックな写真館で、あたしはニンマリと微笑んでいた。

おしまい♪♪

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