☆この小説は「羞恥の風」のとっきーさっきーさんより投稿して頂いたものです。著作権はとっきーさっきーさんが持っておられます。

とっきーさっきー作 聖なる日の贈り物
聖なる日の贈り物



【登場人物 紹介】

二宮佐緒梨(にのみや さおり)

本作品のヒロインで、長い黒髪と白い肌を持つ美少女。
継母と共に歓楽街に近いアパートで暮らしながら、毎晩『マッチ売りの少女の部屋』と呼ばれる所で、その継母に命じられるまま恥辱に満ちた行為させられている。
客である男たちの前では、本名の佐緒梨ではなく、サリーと名乗っている。


野村春樹(のむら はるき)

佐緒梨のクラスの同級生で、高校に入学以来の顔なじみ。
その時から彼女に対して強い思いを寄せていたが、少々気が弱く、未だに口に出せないでいる。
だが、クリスマス直前の終業式の日。ある一大決心をする。


須藤多恵子(すどう たえこ)

ヒロイン二宮佐緒梨の育ての母親。
冷酷で金に対する執着心が強く、娘である佐緒梨を幼い頃から虐待し続けている。
尚、親子でありながら苗字が違うのは、未だ彼女が娘の佐緒梨を籍に入れていないため。


住田(すみだ)

この歓楽街を仕切るヤクザ者のひとり。
佐緒梨の母親多恵子の元へ、月に一度金をせびりにやってくる寄生虫のような男。


副島徹也(そえじま てつや)

白いスーツに身を包んだ、長身痩躯な男。
イブの夜、彷徨う春樹の前に運命の道標のように姿を現す。


最終話 Merry Christmas♪♪



12月24日 月曜日 午後8時40分  野村春樹

「それにしても、坊や。今の悲鳴はなんだい。そんなので、佐緒梨を守ってやれるのかい? ははははっ……」

「おばさん……」

「お義母さんとお言い!」

「うふふっ、春樹ったら……でもお陰で、わたしたち助かりました。えーっと、副島さんでしたよね。どうもありがとうございました」

佐緒梨が、副島さんの前に進み出て頭を下げた。
僕もつられるように頭を下げていた。

「それにしても、チャーミングなお嬢さんですねぇ。パートナーがいないのであれば、ぜひにでも、私好みの女性に仕上げてみたいのですがねぇ。惜しいですねぇ……ククククッ……」

副島さんが低い声で笑った。
笑いながら、佐緒梨をというより、僕の顔を興味深そうに見つめた。

「あのぉ、副島さん……?」

「いや……失礼。君を見ていると、なんとなく懐かしい顔を思い出してねぇ。ククククッ……春樹君だったね。今の気持ち、今のその姿を、いつまでも忘れないことです。では、私はこれで……」

副島さんは、背中越しに手を振りながら去って行った。
滑るような足取りで、文字通り風のように……

「今の気持ち、今のその姿って……?」

僕はつぶやき、自分の身体に視線を落とした。

「いやだぁ、春樹。なによ、その格好。下着姿のまんまじゃない。早く服を着ないと風邪ひくよ」

「ふふっ、佐緒梨、あんたもだよ。ブラジャーとノーパンにスカートでは、あまり人のことを言えた身分ではないがね」

僕と佐緒梨は、慌てて部屋へ飛び込んだ。





「さあ、こんな商売ともこれでサヨナラだね。『マッチ売りの少女の部屋』も、『サリー』も、これでおしまい」

おばさんは、ギギーッって音を立てながらドアを閉めると鍵を掛けた。
そして3人並んで外階段を降りていく。

「それにしても、佐緒梨にはひどいことをさせちまったね。いくら住田に目を付けられているからって、毎晩、お前に辛いことをさせてさ」

「ううん。そんなことないよ。この前、住田がここへ来たときにわたし、気が付いたの。どうして、この部屋がベッドもないくらいに殺風景かって……
うふふっ、これじゃ、セックスできないもんね。堅い床の上では、やっぱり痛いし、雰囲気でないし。それに、わたしを妊娠させたくなかったんでしょ。だから、あんな変な商売を思いついて。まあ、住田も稼いだお金の何割かを与えておけば、おとなしくしてくれたしね」

「ごめん、佐緒梨……やっぱり、痛かったんだ」

僕の脳裡に真っ赤に染まった裸体が浮かんだ。

「うん。でもね、春樹とならいいの。あれで結構、気持ちよかったからね」

「こらこら、年頃の娘がそんなこと言うもんじゃないよ。まあ、あたしにそれを言う資格はないがね」

階段を降り切った僕たちを待っていたのは、真っ白な銀世界だった。
シンと静けさを漂わせる、音のない世界。
男が乗り付けた車の轍も。
拭いようもない辛い記憶、哀しい思い出も。
そのなにもかもが、降り積もる雪によって遠い過去へと消し去られていく。

お願いだ!
消えてなくして欲しい!

僕は、漆黒の空を見上げた。
佐緒梨もおばさんも同じ空を見上げている。

「ところでお義母さん。本当にあの副島という人と新しい仕事を始めるの?」

「ああ。あの男とは古い付き合いでね。今度オープンさせる店を任されることになったのさ。と言っても、思いっきり女を鳴かせる相変わらずの因果な商売だけどね」

「いいんじゃない。お義母さんには向いていると思うよ。なんなら、手伝ってあげようか?」

「ははははっ……いや、遠慮しとくよ。それよりも坊や。今、何時だい?」

「ええっとぉ……もうすぐ9時です」

僕は携帯を開くと、浮き出る時刻を確認した。

「そうかい。それじゃぁ、まだ間に合うね。これを返してやるから、ふたりでクリスマスイブの夜を楽しんできな」

おばさんは、僕の手に紙切れを2枚、握らせてくれた。
初めて会ったときの虚ろ気な表情も、吊り上った瞳も、全ては幻だったように優しい顔で僕を見つめている。

「ありがとう、おばさん」

「だから、お義母さんとお言い!」

「それでは、おば……お義母さん、行ってきます。佐緒梨、行くよ」

「えっ?! 今から? それじゃ、ちょっと待ってて。着替えてくるから……」

「だーめ。もう時間がないんだから。さあ、これを着て」

佐緒梨の肩に僕のジャンパーを羽織らせた。
驚く佐緒梨に、ニッて笑い掛けて手を繋いだ。

手と手を握りしめて、指と指を絡めて、僕と佐緒梨は走っていた。
真っ白な雪の道に、ふたりの足跡をしっかりと刻みながら、静かな静かなクリスマスの夜を駆けて行った。

聖なる日の贈り物を握りしめて……
聖なる日の贈り物を心に留めて……
もう永遠に手放さない聖なる日の贈り物に、ふたりの呼吸をひとつにして……

メリー・クリスマス……♪♪


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