こんにちは、二次元世界の調教師です。感想を書きました。

雪の階(下) 奥泉光

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怪しい秘密組織の関与を匂わせる、オカルトミステリーだけど、種明かしをされると、オカルト要素は関係なく、極めて人間的な犯罪だったと言うストーリー。聡明な惟佐子は、兄が神人思想と言う狂気に染まっていると見抜き、策略で二・二六事件への参加を阻止する。同様に、権力欲で天皇機関説を攻撃し、憂国の士を気取っていた父のエピソードが面白い。軟弱なため、国士を養成する私塾に送り込んでいた息子が、すっかり感化されてしまい、金の使い込みの疑惑を持たれた父に、切腹を迫ってくる。開戦を強く主張する息子に対して、狂気から醒めた父は、客観的に日米の力差を認め、勝ち目のない喧嘩をする馬鹿はいない、と本音を明かすのだ。

 最強ヒロイン惟佐子を核に、さまざまなレベルでの読みが可能な、多層的な作品であった。この作品の魅力が、ミステリアスに描かれている、ヒロイン惟佐子に負っているのは明らかだと思う。読者も含めて、関わる人全てを魅了する、最強のヒロインである。自身の特別な血だとか、能力だとかを、明確に否定し、俗臭に塗れたこの世界に踏みとどまった彼女に拍手喝采。

 それにしても、超絶美形な惟佐子が、男女を問わずお盛んと言うのは、反則級の設定だ。兄の惟秀も同様の両刀使いに描かれており、「神人の血」は狂人の世迷い言だが、下世話な点では、しっかり血の繋がりを感じさせられた。