☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。

shyrock作 綾 長安人中伝
綾 長安人中伝















第9話

「綾様、この季節は緑も生き生きとして、草花もたいそう美しいですなあ」
「そうね。本当にきれいだわ」
「しかし三国一の美女との呼び声高い綾様の美貌に比べたら、一面に咲く花々もかすんで見えますなあ」
「まあ、そんな。お上手を言って」
「いえいえ、お世辞などではございませぬ。まことそのように思っておりますゆえ」
「そうなの?嬉しいわ。おほほほほほ~」

 綾たちが和やかに談じていた時、木立の間から何かがきらりと光った。
 その数は1つではなく、10,20と増えて行った。

(ガサガサ・・・)

 その時、異様な空気を肌に感じたのか、綾の前を行く林寧(りんねい)という武将がふと立ち止まった。

(ん・・・?)

「林寧、どうしたのじゃ?」

 林寧の横を歩いていた武将が尋ねた。

「うん・・・何か気配を感じる・・・」
「なんだと?」
「何者かが我々を狙っている。それも1人や2人ではなく、おびただしい数だ。皆の者、用心せよ」
「な、何?」
「我々を狙っているやつがいると言うのか!?」
「何者であろうが返り討ちにしてくれるわ」

 殺気だった空気が綾とその周囲を包み込んだ。
 綾の表情が突然険しくなった。

「どうしたの?」
「綾様、何者かが我々を付けねらっているようです。しかしご心配はご無用です。我々がお守りしますゆえ」
「・・・・・!?」

 綾とお付の武将との会話も終わらないうちに、道の左右から辰の声(ときのこえ)が巻き起こり、一斉に男達が躍り出た。
 男達の身形(みなり)からすると、いずこかの国の兵ではなく、野武士か盗賊のようだ。

「掛かれ~~~!」
「お~~~!」
「やっちまえ~!」
「女は生け捕りにしろ~!」

「く、くそっ!両方から挟み撃ちとは卑怯な!?み、みんな、気をつけろ!!」
「うっ、すごい数だ!」
「何を!一命に代えてでも綾様をお守りするぞ!」



第10話

 綾の左翼には林寧ともう1人が、右翼には雁建(がんけん)ともう1人が綾を乗せた牛車を背に防御体制を敷いた。
 牛車を操る御者も槍を取り出し構えた。

「とりゃあ~~~!」

 先ず1人、大きな掛け声とともに髭面の男が林寧目掛けて長槍で突いてきた。

「何の!」

 林寧は軽く槍先をかわし、態勢の崩れた男に長剣が見舞った。

「うぎゃあ~~~!」

 赤い血しぶきが飛び、男がもんどりうって地面に倒れた。
 それにしても恐ろしい強さだ。
 豪傑呂布が指名だけのことはある。
 一瞬、襲撃した側の男たちがたじろいでしまった。

 頭領と思われる男が号令を掛けた。

「怯むな!やつらは少数だ!掛かれ~!掛かれ~~~!」

 牛車を挟んで左右からおびただしい人数の野党たちが躍り出た。

「お~~~!」
「行け~~~!」
「倒せ~~~!」

「くそ!何という数!」
「我らを呂布将軍の配下と知っての狼藉か!?」
「おのれ!」
「返り討ちにあわせてやる~~~!」

 あまりにも牛車のそばでの戦闘だと、綾にまで被害が及ぶと考えた林寧たちは数歩前に出て戦いに臨んだ。
 ところが結果的にはそれが彼らの命取りになってしまった。
 少数で多勢を相手にしなければならない時は背中を壁に向けるのが最も安全だ。
 攻めてくる方向が特定できるからだ。
 いくら強者であっても、周囲を取り囲まれては勝ち目がない。

 数歩前に出たことによって横からの攻撃を受けやすくなってしまったのだ。
 林寧の隣で戦っていた武将が敵の刃に捕まり倒されていった。
 さらに襲いかかる無数の剣と槍の嵐。
 それでも呂布配下の武将たちはよく戦った。
 死体の山を築き上げるのは敵方ばかりであった。

 しかし倒しても倒しても止め処もなく襲い来る敵方の前に、林寧たちの疲労は次第に色濃くなってきた。

「ぎゃあ~~!」

 林寧の裏側で断末魔の声が響いた。
 林寧が手塩に掛けて育ててきた若き武将、延瑞が倒されたようだ。

「え、延瑞~!!」

 続いてもう1人の右翼を守る武将も敵の凶刃を浴び遭えない最後を遂げた。
 同じ頃、牛車の上から巧みに槍を繰り出していた御者も敵の数本の槍の犠牲となっていた。
 残ったのは綾と林寧の2人だけだ。


続く→綾 長安人中伝 第11~12話

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