☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。

shyrock作 綾 長安人中伝
綾 長安人中伝














第11話

 綾は牛車の中で、瞳を鋭く吊り上げ短刀を構えた。
 まさか帰宅の途上で素性も知らない暴漢に襲われ、全員壊滅の危機に瀕することになるとは・・・。
 無念ではあるが、これもまた天が与え給うた運命なのかも知れない。
 それならばせめて散り際だけでも豪傑呂布の恋人らしく、取り乱すことなく立派な最後を遂げようと思った。

 その矢先、どこからか命令を下す甲高い声が綾の耳に入った。
 ふと見ると黄色い戦旗のなびく下で、吊り目でどじょう髭の男が戦扇を振っていた。
 どうも一味の大将格のようだ。

「残る敵はたった1人だ!向こう側の兵は牛車に乗っている女をさらうのだ!いいか!決して傷はつけるな!」

「おお~!」
「承知~!」
「女をひっ捕らえろ~!」

「あ、綾様っ!!」

 林寧は焦った。
 だが自分に切り掛かってくる敵を倒すことで精一杯だ。

 一団は牛車の扉をこじ開け、綾を引きずり出そうとした。
 綾は持っていた短剣で侵入してきた男の胸板をグサリと突き刺した。

「ぎゃあ~~~!」

 不用意に綾に近づいた男が仰向けに倒れた。

「おのれ~!この女が!」
「おい!女に傷をつけるなよ!」
「分かっておるわ!ひっ捕らえてくれるわ~!」

 綾の繰り出す短剣をかわした男は、綾の腕を掴んだ。

「は、放して!」
「でへへへ、気の強い女だぜ。俺を突き刺しのはちょっと無理だぜ。さあ、牛車から出ろ」

 男は強引に綾を牛車から引きづり降ろした。
 必死に抵抗を見せる綾に数人の男が素手で襲い掛かった。

 敵を倒しながら綾の様子に神経尖らしていた林寧は、ついに堪りかねて
 裏側に回り込もうとした。
 つまり敵に背を見せたわけである。
 その瞬間、1人の男が繰り出した槍が林寧の背中を捉えた。

「ぐわ~~~っ!」

 さらに数本の剣が林寧を襲った。

「げっ!うぐぐっ・・・む、無念・・・あ・・・綾様ぁ~・・・」

「り、林寧!林寧~~~!!死んじゃだめよ~~~!!」

 綾の耳に林寧の叫ぶ声が届いた。

「どうして~!?どうしてなの~!?」「うるせえんだよ!」
「大人しくしな!」
「どうしてこんな酷いことをするのよ!!」

 綾は涙声で辺りの男たちに訴えた。



第12話

 綾が持っていた短剣はいつのまにか払い落とされ、四方から屈強な男たちに取り押さえられていた。

「いやあ~~~~~!!は、離して~~~~~!!」
「もう観念しな。もうお前を守ってくれる奴なんて誰もいないんだぜ」
「そうそう、皆、あの世におさらばしたんだ。諦めるんだ」
「いや~~~~~!!助けて~~~~~!!」
「大人しくしねえと痛い目を見るぜ」

 男たちはなおも暴れる綾を荒縄で後手に縛り上げ、綾が乗っていた牛車に押し込んだ。
 綾は横倒しにされ、両脚首もしっかりと縛り上げられ、さらには口に猿ぐつわまで噛まされてしまった。
 1人の男が御者を務め、まもなく牛車はゴトリと動き始めた。

 綾たちが去った後には、生々しい戦の痕跡が残っていた。
 奮闘空しく露と散っていった林寧たちの遺体と、その数倍にも及ぶ敵方の骸(むくろ)が葬られることもなく、藪を通り抜ける風に晒されていた。

 綾を乗せた牛車を中心に男たちは速足で南の方角に歩を進めた。
 隊列の先頭には先程戦扇を振っていた男が馬に跨っている。
 その横を歩く男がニコニコ顔で馬の男に語りかけた。

「地公(ちこう)将軍、作戦は見事に成功しましたなあ」
「全くだ」
「でもまさか、我々の別働隊が村を襲い、呂布の目をそちらに向けさせ、その間隙を縫って呂布の恋人を連れ去るとは、さすがに地公将軍ですなあ。あの馬鹿の呂布とは大違いです」
「はっはっは~、あんな馬鹿呂布と比べられては心外だ」
「あ、これはご無礼を」
「いや、それにしても、あの呂布は単細胞な男だ。分かりやすい」
「ははあ、仰せの通りで」
「確かに滅法強く、剣を持たせばこの国で奴に敵うものがいないかも知れない。しかし、奴には大きな弱点がある。実に単純な性格であることとと、もうひとつは女だ」
「女好きということですか?」
「少し違う」
「と申しますと?」


続く→綾 長安人中伝 第13~14話

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