☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。

shyrock作 綾 長安人中伝
綾 長安人中伝















第37話

 城の玄関は当然ながら守りが最も硬固である。
 正面の他にも出入り口が数ヶ所あり、そこから進入する事も考えたが、敵もその点は十分に警戒しているだろうし厳重な警備体制を敷いている事が予測された。
 各出入り口に門兵が立っているため、仮に門兵を倒したとしても騒ぎが城内に聞こえ敵の援軍が駆けつけ入り乱れての乱戦となることも考えられた。
 そうなれば囚われの身となっている綾の身が非常に危険な状態となるだろう。
 そこで採った作戦は、敵兵に成りすまし堂々と正門から入ることであった。
 呂布達は先ほど倒した巡回兵の衣服を剥いで身にまとった。
 14名分の衣服が無い分は、泥を塗りたぐってごまかすことにした。

 呂布は特別に大柄なので、かなり窮屈そうである。

「将軍、よくお似合いですな」
「嘘をつけ。手足がはみ出ているではないか」
「はぁ・・・確かにそう言えばそのようで。ご無礼お許しを」
「まあ、良いわ。よしこれで正面から堂々と入れるぞ。皆の者、絶対にびくつくな。黄巾の戦旗を高々となびかせ、やつらになったつもりで何食わぬ顔で通リ過ぎるのだ。分かったか」
「はは~!承知しました!」
「はい、将軍!よく分かりました!」
「御意!」

 落石地獄から難を逃れた精鋭達14名は、呂布を先頭に城門に向かった。

 城門の左右にはふたりの門兵が立っている。
 呂布の乗る馬は少し後退し、入れ替わって陳宮が門兵の前に出た。
 大柄な呂布だとあまりにも目立ち過ぎるのと、もしかすれば顔を知られてる危険性もあるため、安全を期して陳宮が隊長の役割を演じた。

「巡回ごくろうさまでした!」
「お前たちも門の警護ご苦労である。では門を開けてくれ」
「はい、少々お待ちください」

(ギギ~~~)

 門兵が門を開ける間、もう1人の門兵が陳宮に話しかけてきた。

「特に怪しき者はおりませんでしたか」
「安心しろ。キツネ一匹見掛けなかったぞ」
「そうですか。それなら安心ですなあ」
「お待たせしました。では、どうぞお通りください」
「うん、ごくろう」

 陳宮を筆頭に呂布達は敵門を難なく潜り抜けた。

「おい、巡回兵ってあれほど大勢いたか?」
「いつもは確か5人ぐらいだったと思うんだが、最近は呂布を警戒して警備を強化しているのかも知れないな」
「ああ、そうかもな」
「おい、次の休憩は何時からだ」
「え~と・・・」

 門兵は大して疑う様子もなく、そのまま警護に就いた。



第38話

 張宝や主だった武将達は綾が囚われている部屋に集結していた。
 もちろん城内には多くの兵士が任務に就き、中には剣や槍の稽古に励む光景なども見られた。
 しかし、黄巾の服を身に着け、さらには黄巾の旗をなびかせて堂々と進む呂布達を、よもや敵兵と思う者は1人としていなかった。
 張宝がいるのは城郭のどの辺りか、そして綾が捕らえられてる場所はどこなのか・・・。
 本来は敵城ゆえに見当もつかないところだが、幸いなことに、侵入した14人の中に、以前、黄巾に囚われたことがあり脱走した武将が1人いた。
 彼は拷問を受け片目を失いはしたが、脱出逃走し成功し今に至っている。

「この先の道案内は私にお任せください。例え囚われの身であっても、私には一度通った道や通路をつぶさに記憶し、地図を作ることもできる能力があります。 牢獄以外に張宝のいる部屋にも通されて取調べを受けましたし、拷問部屋の場所も憶えております。」
「ほほう、これは頼もしいやつじゃ。では先導してくれ。ところでそちの予測では綾はどこにおると思うのじゃ」
「はい、牢獄、拷問部屋、張角、張宝の部屋・・・このいずれかだと思います」
「ええい!それでは予測にはならぬ!全部回らなければならないではないか!それぞれ回っているうちに綾が殺されるかも知らないのだぞ!」
「ははぁ、申し訳ありません。大変言い難いのですがズバリ申し上げますと」
「うん、構わぬ。言え」
「拷問部屋かと思います」
「何!?綾が拷問を受けておるというのか!」
「呂布将軍、気を鎮めてお聞きください」
「うん」
「張角、張宝ともに好色では大変有名な男達でございます。しかもかなり変質者と聞き及びます。つまり、通常の手段ではなく、性的ないたぶりを・・・」
「ええい!もう良いわ。その先は言うな!よし、分かった。では皆の者、今から拷問部屋に向かう。あくまで堂々と進むのだ。黄巾の兵になり切るのだ。ただし見つかった場合は、最後、切って切って切りまくれ。良いか。ただし・・・」
「ただし?」
「綾の身の安全は最優先しろ。良いな」
「ははぁ、承知しました」
「分かりました」

 14人の精鋭たちは馬から降り、城内の中心部へと進んでいった。
 廊下ですれ違う兵も何食わぬ顔で会釈をしてくるだけであった。

 長い廊下を進み、正面の右側に張角と張宝の部屋が並んである。
 左に曲がってさらに下りの階段を降りると牢獄と拷問部屋へと繋がっている。
 呂布達は廊下の突き当りまで行くと、ちらりと右に目をやったが、迷うことなく通路を左へと曲がった。

 綾の姿を見るまでは、できるだけ敵との衝突は避けたい。
 呂布達の想念は幸いにも叶えられて、途中、敵兵と遭遇することはなかった。
 そしてついに、地下へ下る階段の第一歩を踏んだ。




続く→綾 長安人中伝 第39~40話

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