☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。
shyrock作 ゆま 祇園桜散りそめて
<主な登場人物>
夢岡 ゆま 十七歳、祇園舞妓
峰山 勝治 五十五歳、首相秘書官
畑 巳之吉 六十二歳、大阪道修町薬品卸問屋組合理事長
柳本 せつ 五十八歳、京都宮川町置屋女将
山村 長次 四十八歳 料亭『紅屋』板長
shyrock作 ゆま 祇園桜散りそめて
<主な登場人物>
夢岡 ゆま 十七歳、祇園舞妓
峰山 勝治 五十五歳、首相秘書官
畑 巳之吉 六十二歳、大阪道修町薬品卸問屋組合理事長
柳本 せつ 五十八歳、京都宮川町置屋女将
山村 長次 四十八歳 料亭『紅屋』板長
第二話「舟盛り器へ」
「昨夜につづいて今夜も峰山先生がきやはるよってに、夕方四時に料亭『紅屋』に上がってくれるかぁ?」
「へえ、上がらせてもらいますぅ」
「せやけどなぁ、今夜はちょっと気がしんどいかも知れへんのや」
「気がしんどいてどう言うことどすか?」
ゆまは怪訝な表情でせつにたずねた。
「男はんらの前で裸にならなあかんのや……」
「ええっ! 裸に!? そんな……」
ゆまは驚きのあまり言葉を失ってしまった。
まだ性経験がないばかりか、男性の前で肌を晒したことなど一度もなかった。
先輩芸妓や舞妓から『水揚げ』のことは多少は聞かされていたので、花街のならわしをある程度は知っていたが、まさか大勢の男性の前で裸にならなければならないとは……。
どうしてそんな破廉恥なことをしなければならないのだろうか。
ゆまはたとえ女将の言いつけであっても納得できなかった。
だがこの頃、舞妓の分際で女将の言いつけに逆らうことなど許されるはずがなかった。
女将の意向は絶対であり、舞妓の希望など一切斟酌されない世界であった。
それが祇園の仕来りであり、決まりごとなのだ。
ゆまは喉元まででかけた言葉をぐっと堪えて静かにうなずいた。
「どんなこと、するんどすか?」
「ええか、よぉ聞きや。『女体盛り』言うてな、着物を脱いで寝転んだら、板場が数種類のお造りを身体に盛りつけてきますんや。そのお造りを旦那衆がお召し上がりになるわけや」
「えっ! ほんまどすか!? そんなことするんどすか……」
ゆまは女将から今夜行なう内容を聞かされ愕然とした。
「旦那衆が見たはる前で裸になんのは恥かしいやろけど、これも旦那衆の遊びの一つなんや。まだ舞妓や言うても祇園で生きる女やねんから、それぐらいのこと、覚悟せなあきまへんでぇ」
「はぁ、よぉ分かりました……」
◇◇◇
午後四時、料亭『紅屋』に着いたゆまはすぐさま板長から『女体盛り』の手順について説明を受けた。
ゆまは気が重かった。
だけど引き返すことはできない。
ゆまは板長の指示に従い一階の調理場の隣の小部屋で帯を解いた。
身体の震えが止まらない。
「ガチガチやなあ。あんまり緊張しなや」
板長が衝立の向こうから声をかけた。
「おおきに」
「着物脱いだら、その舟盛器に入って仰向けに寝転んでくれはる? 舟はこんまいけど、大舟に乗ったつもりできばってや」
「へえ……おおきに……」
ゆまの緊張をほぐそうと、板長が掛けてくれた言葉がじんわりと心に沁みた。
横には人の背丈ほどの大きさで舟の形をした造り盛り付け用の器が配備されていた。
船底には舞妓への配慮からか薄い布団が敷かれ、ゆまの髪型『割れしのぶ』でもうまく収まりそうな枕までが置かれている。
ゆまは躊躇いながらも舟盛器の中で仰向けに寝ると、あらかじめ用意されていた白いさらし布を自身で掛けた。
のちにめくられることは分かっているが「少しでも長い時間隠したい」と言うのが女心と言うものだ。
まさしく『まな板の上の鯉』の心境で、ゆまは目を閉じてじっと待った。
まもなく先ほどの板長が数人の板場を伴って小部屋に入って来た。
「ほな、すんまへん。入らしてもらいますわ」
板長の声にゆまは目を開けた。
視線の先には五十手前の板長と若い板場二人が立っていた。
さすがに板長は物怖じしないどっしりとした態度であったが、若い板場は目のやり場に困っている様子であった。
若い板場にすれば、若鮎のように美しい舞妓の裸体はあまりにも眩しすぎた。
板長が落ち着いた口調でゆまに語りかけた。
「ほな、布を除けさせてもらうで。かんにんしてなぁ」
まもなくゆまの身体に掛けられていた白いさらしの布は、板長の手でいとも簡単に取り除かれた。
舞妓の裸体を目の当たりにしても、眉ひとつ動かさない。
それは祇園に生きる一流の板場の誇りと職業意識の強さであろう。
それに比べて、若い板場は顔を強張らせ、板長の指示にもぎこちない動きであった。
「ハマチ」
「へえ……」
「タイ」
「へえ……」
「ヒラメ」
「へえ……」
板長は魚の名称を小声で告げていく。
そのたびに若い板場は、それらの刺身を盛った皿を告げられた順に板長の前に置いていく。
板長は器用に長い料理箸を駆使し、ゆまの身体に速いピッチで盛り付けて行く。
女性の肉体は美しい曲線で構成されている。
肉体のどこにも直線がない。
つまり刺身を置くにはいささか不安定なのだ。
板長が機械的に置いているように見えるが、これが意外と難しい技なのである。
「つま」
「へぇ……」
「けん」
「へぇ……」
続く→ゆま 祇園桜散りそめて 第三話「舞妓女体盛り」
戻る→ゆま 祇園桜散りそめて 第一話「権力者の獣欲」
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「昨夜につづいて今夜も峰山先生がきやはるよってに、夕方四時に料亭『紅屋』に上がってくれるかぁ?」
「へえ、上がらせてもらいますぅ」
「せやけどなぁ、今夜はちょっと気がしんどいかも知れへんのや」
「気がしんどいてどう言うことどすか?」
ゆまは怪訝な表情でせつにたずねた。
「男はんらの前で裸にならなあかんのや……」
「ええっ! 裸に!? そんな……」
ゆまは驚きのあまり言葉を失ってしまった。
まだ性経験がないばかりか、男性の前で肌を晒したことなど一度もなかった。
先輩芸妓や舞妓から『水揚げ』のことは多少は聞かされていたので、花街のならわしをある程度は知っていたが、まさか大勢の男性の前で裸にならなければならないとは……。
どうしてそんな破廉恥なことをしなければならないのだろうか。
ゆまはたとえ女将の言いつけであっても納得できなかった。
だがこの頃、舞妓の分際で女将の言いつけに逆らうことなど許されるはずがなかった。
女将の意向は絶対であり、舞妓の希望など一切斟酌されない世界であった。
それが祇園の仕来りであり、決まりごとなのだ。
ゆまは喉元まででかけた言葉をぐっと堪えて静かにうなずいた。
「どんなこと、するんどすか?」
「ええか、よぉ聞きや。『女体盛り』言うてな、着物を脱いで寝転んだら、板場が数種類のお造りを身体に盛りつけてきますんや。そのお造りを旦那衆がお召し上がりになるわけや」
「えっ! ほんまどすか!? そんなことするんどすか……」
ゆまは女将から今夜行なう内容を聞かされ愕然とした。
「旦那衆が見たはる前で裸になんのは恥かしいやろけど、これも旦那衆の遊びの一つなんや。まだ舞妓や言うても祇園で生きる女やねんから、それぐらいのこと、覚悟せなあきまへんでぇ」
「はぁ、よぉ分かりました……」
◇◇◇
午後四時、料亭『紅屋』に着いたゆまはすぐさま板長から『女体盛り』の手順について説明を受けた。
ゆまは気が重かった。
だけど引き返すことはできない。
ゆまは板長の指示に従い一階の調理場の隣の小部屋で帯を解いた。
身体の震えが止まらない。
「ガチガチやなあ。あんまり緊張しなや」
板長が衝立の向こうから声をかけた。
「おおきに」
「着物脱いだら、その舟盛器に入って仰向けに寝転んでくれはる? 舟はこんまいけど、大舟に乗ったつもりできばってや」
「へえ……おおきに……」
ゆまの緊張をほぐそうと、板長が掛けてくれた言葉がじんわりと心に沁みた。
横には人の背丈ほどの大きさで舟の形をした造り盛り付け用の器が配備されていた。
船底には舞妓への配慮からか薄い布団が敷かれ、ゆまの髪型『割れしのぶ』でもうまく収まりそうな枕までが置かれている。
ゆまは躊躇いながらも舟盛器の中で仰向けに寝ると、あらかじめ用意されていた白いさらし布を自身で掛けた。
のちにめくられることは分かっているが「少しでも長い時間隠したい」と言うのが女心と言うものだ。
まさしく『まな板の上の鯉』の心境で、ゆまは目を閉じてじっと待った。
まもなく先ほどの板長が数人の板場を伴って小部屋に入って来た。
「ほな、すんまへん。入らしてもらいますわ」
板長の声にゆまは目を開けた。
視線の先には五十手前の板長と若い板場二人が立っていた。
さすがに板長は物怖じしないどっしりとした態度であったが、若い板場は目のやり場に困っている様子であった。
若い板場にすれば、若鮎のように美しい舞妓の裸体はあまりにも眩しすぎた。
板長が落ち着いた口調でゆまに語りかけた。
「ほな、布を除けさせてもらうで。かんにんしてなぁ」
まもなくゆまの身体に掛けられていた白いさらしの布は、板長の手でいとも簡単に取り除かれた。
舞妓の裸体を目の当たりにしても、眉ひとつ動かさない。
それは祇園に生きる一流の板場の誇りと職業意識の強さであろう。
それに比べて、若い板場は顔を強張らせ、板長の指示にもぎこちない動きであった。
「ハマチ」
「へえ……」
「タイ」
「へえ……」
「ヒラメ」
「へえ……」
板長は魚の名称を小声で告げていく。
そのたびに若い板場は、それらの刺身を盛った皿を告げられた順に板長の前に置いていく。
板長は器用に長い料理箸を駆使し、ゆまの身体に速いピッチで盛り付けて行く。
女性の肉体は美しい曲線で構成されている。
肉体のどこにも直線がない。
つまり刺身を置くにはいささか不安定なのだ。
板長が機械的に置いているように見えるが、これが意外と難しい技なのである。
「つま」
「へぇ……」
「けん」
「へぇ……」
続く→ゆま 祇園桜散りそめて 第三話「舞妓女体盛り」
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