☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。
shyrock作 ゆま 祇園桜散りそめて
<主な登場人物>
夢岡 ゆま 十七歳、祇園舞妓
峰山 勝治 五十五歳、首相秘書官
畑 巳之吉 六十二歳、大阪道修町薬品卸問屋組合理事長
柳本 せつ 五十八歳、京都宮川町置屋女将
山村 長次 四十八歳 料亭『紅屋』板長
shyrock作 ゆま 祇園桜散りそめて
<主な登場人物>
夢岡 ゆま 十七歳、祇園舞妓
峰山 勝治 五十五歳、首相秘書官
畑 巳之吉 六十二歳、大阪道修町薬品卸問屋組合理事長
柳本 せつ 五十八歳、京都宮川町置屋女将
山村 長次 四十八歳 料亭『紅屋』板長
第四話「十五膳の箸に囲まれて」
若い板場が舟盛り器を押し始めると、四隅に付いている木の車輪のきしむ音がした。
どこか切なげなその音に、ゆまの目頭が思わず熱くなり一筋の涙がこぼれ落ちた。
旦那衆が待つ座敷への長い廊下をゆまを乗せた舟盛り器が進む。
舟を押す若い板場はときおりゆまの方を見た。
若い板場にとっては、おそらく自分と同世代であろう舞妓の肌の白さが眩しかった。そして痛々しく感じられた。
彼は花野一平といい正確にはまだ板場見習いの身であった。
そんな彼の口から言葉が漏れた。
「ゆまはん、がんばりや……」
まさか一番若い板場の口から励ましの言葉が漏れるとは……
思いがけない一言に、ゆまは寂しげな微笑みを浮かべた。
「励ましてくれはっておおきに。うち嬉しおすえ……」
ゆまには若い板場の瞳に涙が光っているように思えた。
自分の恋人でもないのに心配してくれる、そんな彼のやさしい気持ちがとても嬉しかった。
だけどゆまがそんな感傷にひたってられるのもほんの一瞬だった。
まもなく木の車輪が止まった。
ついに座敷に到着したのだ。
大勢の旦那衆が待ち構えている座敷は襖の向こうなのだ。
ゆまに緊張が走る。
まさにまな板の上の鯉の境地といえる。
板長が低い声で指示をした。
「さあ着いたで。わてが襖を開けるよってに一平は真っ直ぐ進むんや。健三は刺身が揺れて落ちひんか見張っとき。よろしいな、ほな、いくで」
「へい、承知しました」
「へい、よろしおす」
板長が襖を開けて舟盛り料理の到着を告げたが、日頃、ご馳走を食べ慣れている旦那衆の反応はいたってとぼしい。
「おまっとうさんどす。舟盛り料理を持って参じました」
宴会を仕切っている理事長がニコニコしながら板長に奥へ進むよう促した。
「おお、これは見事なできやなあ。別嬪舞妓の女体盛り見たら、先生や旦那衆が腰を抜かすで。がはははは~。さぁ、はよ運んで」
理事長は首相秘書官峰山の前に早速運ぶよう促した。
板長は若い板場たちに目配せをし、ゆまを乗せた舟盛りは座敷の中央へと運ばれていく。
峰山は座敷奥の床の間の前に着座している。
板長たちは舟盛りを押していく。
そのさなか、舟盛りの中に裸女がいることに気づいた旦那衆が素っ頓狂な声をあげた。
やがて複数の声が重なり歓声へと変わっていく。
まもなく峰山の前に舟盛り料理が配膳され、理事長が一礼する。
「峰山先生、ゆまの舟盛りでございます。どうぞご賞味ください」
「おおっ……これは見事だ……!」
「ゆまは舞う姿もきれいやけど、素肌も申し分おまへんなあ。やっぱり峰山先生は見る目が違いますわ」
「たしかに美しい。濡れた絹のような肌をしておる」
峰山は目を爛々と輝かせて舟に横たわったゆまを見つめていた。
ゆまは羞恥心のあまり峰山や畑理事長を正視することができず、ずっと目を伏せたままであった。
「峰山先生、別嬪はんの裸をずっと眺めてたいお気持ちは分かりますけど、刺身が傷んだらあきまへんので、ぼちぼちお召し上がりください」
「ははははは~、そうだな。では戴くとするか。美人舞妓の肌に盛った刺身を、皆さんもいっしょにいただきましょう~」
峰山の一声で、手ぐすねを引いて待っていた旦那衆が一斉に箸と小皿を手に、ゆまが乗った舟盛り器の周囲を取り囲んだ。
「これはすごいご馳走やで!」
「えらい別嬪さんやおまへんか」
「こんな色っぽいお造り食べるのん初めてやで」
「舞妓の女体盛りなんて一生食べられへんわ」
旦那衆は口々に言葉を発しながら、飢えた狼が獲物のまわりを取り巻くように集まった。
「峰山先生、先ずは先生から箸をつけてください」
「では遠慮なく戴くとするか」
峰山はニヤニヤと笑みを浮かべながら、乳房の谷間に盛られたタイに箸を伸ばした。
「うんうん、これは美味い」
峰山が賞賛の言葉を発すると、周囲から拍手が巻き起こった。
理事長が旦那衆も箸を付けるよう促す。
「ほんなら皆さん、いただきまひょか」
ゆまに盛られている刺身に向かって一斉に箸が伸びた。
旦那衆がこぞって刺身を食する姿を楽しそうに見ている峰山に、理事長が酌をする。
「理事長、今日はご苦労だったね」
「何をおっしゃいますやら。峰山先生が喜んでくれはったら、わてらは嬉しおますねん」
「さあ一杯飲んでくれ」
峰山はさされた酒をグイと飲み干し返盃する。
「それにしてもゆまはまだおぼこいけど、ええ身体をしてまんなあ。さすが峰山先生やお目が高いわ」
「ふふふ、私はあの舞妓を一目見たときに惚れ込んでしまったよ。それにしても早速このような場を設けてくれて、理事長にはすごく感謝してるよ」
「いえいえ、滅相もおまへん」
「ところで、私に何か頼みごとがあるんだろう?」
「ははは、さすが峰山先生には全部お見通しやなあ。せやけど、それはまた後日ちゅうことにしまっさ。今夜は仕事のことは忘れて、ゆまとしっぽりと過ごしてください」
「理事長は気が利く人だね。そうさせてもらうよ。ふふふふふ」
続く→ゆま 祇園桜散りそめて 第五話「キュウリの使い道」
戻る→ゆま 祇園桜散りそめて 第三話「舞妓女体盛り」
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若い板場が舟盛り器を押し始めると、四隅に付いている木の車輪のきしむ音がした。
どこか切なげなその音に、ゆまの目頭が思わず熱くなり一筋の涙がこぼれ落ちた。
旦那衆が待つ座敷への長い廊下をゆまを乗せた舟盛り器が進む。
舟を押す若い板場はときおりゆまの方を見た。
若い板場にとっては、おそらく自分と同世代であろう舞妓の肌の白さが眩しかった。そして痛々しく感じられた。
彼は花野一平といい正確にはまだ板場見習いの身であった。
そんな彼の口から言葉が漏れた。
「ゆまはん、がんばりや……」
まさか一番若い板場の口から励ましの言葉が漏れるとは……
思いがけない一言に、ゆまは寂しげな微笑みを浮かべた。
「励ましてくれはっておおきに。うち嬉しおすえ……」
ゆまには若い板場の瞳に涙が光っているように思えた。
自分の恋人でもないのに心配してくれる、そんな彼のやさしい気持ちがとても嬉しかった。
だけどゆまがそんな感傷にひたってられるのもほんの一瞬だった。
まもなく木の車輪が止まった。
ついに座敷に到着したのだ。
大勢の旦那衆が待ち構えている座敷は襖の向こうなのだ。
ゆまに緊張が走る。
まさにまな板の上の鯉の境地といえる。
板長が低い声で指示をした。
「さあ着いたで。わてが襖を開けるよってに一平は真っ直ぐ進むんや。健三は刺身が揺れて落ちひんか見張っとき。よろしいな、ほな、いくで」
「へい、承知しました」
「へい、よろしおす」
板長が襖を開けて舟盛り料理の到着を告げたが、日頃、ご馳走を食べ慣れている旦那衆の反応はいたってとぼしい。
「おまっとうさんどす。舟盛り料理を持って参じました」
宴会を仕切っている理事長がニコニコしながら板長に奥へ進むよう促した。
「おお、これは見事なできやなあ。別嬪舞妓の女体盛り見たら、先生や旦那衆が腰を抜かすで。がはははは~。さぁ、はよ運んで」
理事長は首相秘書官峰山の前に早速運ぶよう促した。
板長は若い板場たちに目配せをし、ゆまを乗せた舟盛りは座敷の中央へと運ばれていく。
峰山は座敷奥の床の間の前に着座している。
板長たちは舟盛りを押していく。
そのさなか、舟盛りの中に裸女がいることに気づいた旦那衆が素っ頓狂な声をあげた。
やがて複数の声が重なり歓声へと変わっていく。
まもなく峰山の前に舟盛り料理が配膳され、理事長が一礼する。
「峰山先生、ゆまの舟盛りでございます。どうぞご賞味ください」
「おおっ……これは見事だ……!」
「ゆまは舞う姿もきれいやけど、素肌も申し分おまへんなあ。やっぱり峰山先生は見る目が違いますわ」
「たしかに美しい。濡れた絹のような肌をしておる」
峰山は目を爛々と輝かせて舟に横たわったゆまを見つめていた。
ゆまは羞恥心のあまり峰山や畑理事長を正視することができず、ずっと目を伏せたままであった。
「峰山先生、別嬪はんの裸をずっと眺めてたいお気持ちは分かりますけど、刺身が傷んだらあきまへんので、ぼちぼちお召し上がりください」
「ははははは~、そうだな。では戴くとするか。美人舞妓の肌に盛った刺身を、皆さんもいっしょにいただきましょう~」
峰山の一声で、手ぐすねを引いて待っていた旦那衆が一斉に箸と小皿を手に、ゆまが乗った舟盛り器の周囲を取り囲んだ。
「これはすごいご馳走やで!」
「えらい別嬪さんやおまへんか」
「こんな色っぽいお造り食べるのん初めてやで」
「舞妓の女体盛りなんて一生食べられへんわ」
旦那衆は口々に言葉を発しながら、飢えた狼が獲物のまわりを取り巻くように集まった。
「峰山先生、先ずは先生から箸をつけてください」
「では遠慮なく戴くとするか」
峰山はニヤニヤと笑みを浮かべながら、乳房の谷間に盛られたタイに箸を伸ばした。
「うんうん、これは美味い」
峰山が賞賛の言葉を発すると、周囲から拍手が巻き起こった。
理事長が旦那衆も箸を付けるよう促す。
「ほんなら皆さん、いただきまひょか」
ゆまに盛られている刺身に向かって一斉に箸が伸びた。
旦那衆がこぞって刺身を食する姿を楽しそうに見ている峰山に、理事長が酌をする。
「理事長、今日はご苦労だったね」
「何をおっしゃいますやら。峰山先生が喜んでくれはったら、わてらは嬉しおますねん」
「さあ一杯飲んでくれ」
峰山はさされた酒をグイと飲み干し返盃する。
「それにしてもゆまはまだおぼこいけど、ええ身体をしてまんなあ。さすが峰山先生やお目が高いわ」
「ふふふ、私はあの舞妓を一目見たときに惚れ込んでしまったよ。それにしても早速このような場を設けてくれて、理事長にはすごく感謝してるよ」
「いえいえ、滅相もおまへん」
「ところで、私に何か頼みごとがあるんだろう?」
「ははは、さすが峰山先生には全部お見通しやなあ。せやけど、それはまた後日ちゅうことにしまっさ。今夜は仕事のことは忘れて、ゆまとしっぽりと過ごしてください」
「理事長は気が利く人だね。そうさせてもらうよ。ふふふふふ」
続く→ゆま 祇園桜散りそめて 第五話「キュウリの使い道」
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