☆この小説は「愛と官能の美学」のShyrockさんより投稿して頂いたものです。著作権はShyrockさんが持っておられます。
shyrock作 くノ一ありさ~蛇淫の森~
<登場人物>
<登場人物>
ありさ
十七歳。真田流くノ一。見かけは可憐な美少女だが、一日二十里を駆け抜ける能力と、ひとたび苦無(くない)を持たせれば男忍者顔負けの凄腕をもち、忍びの世界では一目置かれる存在に成長していた。
玄(げん)
年齢不詳。妖術の使い手と言われているが、すべてが謎に包まれている。忍び達の間では「遭遇したくない男」と陰でささやかれている。いずれの流派にも属さず、城主と直接契りを交わし報酬を得ているという。
伊賀忍軍
服部半蔵の配下たち。「呪術」と「火術」が得意と言われているが、すべての技量において優れている。伊賀忍軍は「本能寺の変」の際、堺にいた家康を三河まで護送する仕事で、徳川家と太い絆ができた。
shyrock作 くノ一ありさ~蛇淫の森~

<登場人物>
<登場人物>
ありさ
十七歳。真田流くノ一。見かけは可憐な美少女だが、一日二十里を駆け抜ける能力と、ひとたび苦無(くない)を持たせれば男忍者顔負けの凄腕をもち、忍びの世界では一目置かれる存在に成長していた。
玄(げん)
年齢不詳。妖術の使い手と言われているが、すべてが謎に包まれている。忍び達の間では「遭遇したくない男」と陰でささやかれている。いずれの流派にも属さず、城主と直接契りを交わし報酬を得ているという。
伊賀忍軍
服部半蔵の配下たち。「呪術」と「火術」が得意と言われているが、すべての技量において優れている。伊賀忍軍は「本能寺の変」の際、堺にいた家康を三河まで護送する仕事で、徳川家と太い絆ができた。
第一話 「江戸城脱出」
江戸城に大奥女中として潜入し徳川方の密書を掌中に収めた真田くノ一のありさは、林の中を疾風のように駆けていた。
「はぁはぁはぁ……城からこれだけ遠ざかれば、追っ手はもう来ないだろう」
ありさは江戸城から脱出後、初めて休息をとった。
竹筒の水を傾け喉をうるおす。
「ああ、美味しい……」
信州・真田の里で生まれ育ったありさは十歳のころから忍びの修業を始め、めきめきと頭角を現し、五年ほどすると、すでに真田の里のくノ一にありさに敵う者はいなくなっていた。
やがて十六歳になるとその活躍ぶりから『真田くノ一にありさあり』と恐れられようになっていた。
一日に二十里を駆けることのできる健脚を誇り、忍刀を使わず苦無(くない=忍者が使用する両刃の短剣)と手裏剣だけで剣士と対等に渡り合えるほどの非凡な腕前は男忍者も舌を巻くほどであった。
その一方、ありさは人目を惹くほど美しい娘であったが、日頃は任務遂行と鍛錬に明け暮れ、恋の一つもしないまま日々は過ぎていった。
関が原合戦の頃、真田氏は西軍として上田城に籠もり、東軍徳川方の主力部隊である秀忠隊に抵抗したため、徳川方から高野山への幽閉を命じられ、上田の領土は没収されてしまった。
その後も真田幸村は徳川家康を倒すべく深謀遠慮を巡らせていた。そこで幸村は、ありさを大奥女中として江戸城に忍び込ませ、家康が豊臣家家臣片桐且元と密かに交わしている文書を奪いとるよう命じた。
そしてありさは無事文書を奪いとることに成功したのだった……。
◇◇◇
わずかな休息をとったありさは、水筒を背中の物入れに仕舞い込んだ。
そして装束の帯をキュッと締め直した。
くノ一がよく着る法被(はっぴ)のような短めの着物姿をありさは好まず、常に男の忍びと同様に黒装束に身を固めていた。
着物の下は『胸素網(むねすあみ)』と呼ばれる網状の防具を着用する。
『胸素網』は万が一刀で切られても、深手を負わないようにするための長袖の防具である。
また乳房が揺れないようにとの配慮から胸にはさらしの布を巻き込み、下半身は男と同じようにふんどしを締めるといういでたちであった。
「さて、それじゃぼちぼち行こうか。この密書を殿の元へ早く届けなくては」
ありさは下半身に手を伸ばし、そっとふんどしに触れた。
和紙の感触が伝わってきた。
疾走中に大事な密書を落とさないようにと、ふんどしの内側に縫いつけておいたのだ。
ありさは再び林道を走りだした。
「ん……?」
数十歩走ったところで、ありさはふと藪の中に何やらかすかな気配を感じた。
その気配が生き物であることを確信したありさは手裏剣を握った。
握ったまま藪の中に注意を払いながら再び駆けだした。
ありさの使命は、ここで交戦し無駄に時を費やすことではなく、一刻も早く幸村の元に密書を届けることにある。
避けることができるならば余分な戦いは避けて、逃げることに専念する方が忍びとしては優秀なのだ。
ましてや相手が敵ではなく獣であるなら殊更だ。
ありさは自慢の脚で大地を蹴り一段と加速した。
(……!?)
しかし不思議だ。
先ほどから漂う気配は一向に消えない。
いくら走っても執拗に着いてくる。
速さを自負する自分と対等に駆ける者が現れたというのか。
いや、やはり獣か。
姿を見せない敵に、ありさは苛立ちを覚えた。
(むむっ、私に攻撃を仕掛けてくるつもりだね。そうは行かないよ)
ありさは突然立ち止まり握っていた手裏剣を打った(手裏剣は「投げる」ではなく「打つ」と言う)。
(ぐぇ~っ!!)
悲鳴は人のそれではなく明らかに獣のものであった。
「仕留めたかっ!」
ありさは草むらをかき分け、林の中へ入っていった。
木立の少し奥に一匹の獣が血を流して横たわっていた。
それは狼だった。
手裏剣は見事に狼の眉間を捉えていた。
致命傷になったのか狼は既に息が絶えていた。
「狼だったのか……可哀想なことをしたが、これで一安心だな」
ほっと一息着いたその時、ありさのそばを手裏剣が横切った。
手裏剣は大木にぐさりと突き刺さった。
「うわ~~~っ!何者だ!」
草むらにいては不利だと考えたありさは再び駆けだした。
少しでも広い場所に行って敵を迎え撃とうと言うのである。
しばらく駆けると、まもなく広場が現れた。
(ここなら敵の姿が見えるから対等に戦える……)
苦無を構えるとすぐに黒装束の男たちが現れた。
前から二人、左側から一人、右側から一人、後ろからも一人……
(ふっ……敵は五人か……)
広場の中央に立つありさと、それを円形にとりかこむ黒装束の男たち。
いでたちから男たちはおそらく忍びであろう。
「おまえたちは何者だ!」
「ふふふ……おれたちは『草』だ。と言ってもおそらく知らぬだろう。真田のくノ一ありさよ」
「むっ、私を知っておるのか?」
「当たり前だ。江戸城からずっと貴様を追いかけてきたんだ」
「な、なんだと!?私に追いつくとは、なかなかの俊足だな。褒めてやるぞ」
「ふふふ、余裕だな。だがその余裕ももうすぐ終わりだ」
「なぜ私を襲う?」
「江戸城で密書を盗み出しだろう?それを返してもらう」
「そんな物知らぬ」
「ふん、では貴様を倒して取り返すまで。覚悟!」
続く→くノ一ありさ~淫蛇の森~ 第二話 「伊賀忍軍」
くノ一ありさ~淫蛇の森~ 目次
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江戸城に大奥女中として潜入し徳川方の密書を掌中に収めた真田くノ一のありさは、林の中を疾風のように駆けていた。
「はぁはぁはぁ……城からこれだけ遠ざかれば、追っ手はもう来ないだろう」
ありさは江戸城から脱出後、初めて休息をとった。
竹筒の水を傾け喉をうるおす。
「ああ、美味しい……」
信州・真田の里で生まれ育ったありさは十歳のころから忍びの修業を始め、めきめきと頭角を現し、五年ほどすると、すでに真田の里のくノ一にありさに敵う者はいなくなっていた。
やがて十六歳になるとその活躍ぶりから『真田くノ一にありさあり』と恐れられようになっていた。
一日に二十里を駆けることのできる健脚を誇り、忍刀を使わず苦無(くない=忍者が使用する両刃の短剣)と手裏剣だけで剣士と対等に渡り合えるほどの非凡な腕前は男忍者も舌を巻くほどであった。
その一方、ありさは人目を惹くほど美しい娘であったが、日頃は任務遂行と鍛錬に明け暮れ、恋の一つもしないまま日々は過ぎていった。
関が原合戦の頃、真田氏は西軍として上田城に籠もり、東軍徳川方の主力部隊である秀忠隊に抵抗したため、徳川方から高野山への幽閉を命じられ、上田の領土は没収されてしまった。
その後も真田幸村は徳川家康を倒すべく深謀遠慮を巡らせていた。そこで幸村は、ありさを大奥女中として江戸城に忍び込ませ、家康が豊臣家家臣片桐且元と密かに交わしている文書を奪いとるよう命じた。
そしてありさは無事文書を奪いとることに成功したのだった……。
◇◇◇
わずかな休息をとったありさは、水筒を背中の物入れに仕舞い込んだ。
そして装束の帯をキュッと締め直した。
くノ一がよく着る法被(はっぴ)のような短めの着物姿をありさは好まず、常に男の忍びと同様に黒装束に身を固めていた。
着物の下は『胸素網(むねすあみ)』と呼ばれる網状の防具を着用する。
『胸素網』は万が一刀で切られても、深手を負わないようにするための長袖の防具である。
また乳房が揺れないようにとの配慮から胸にはさらしの布を巻き込み、下半身は男と同じようにふんどしを締めるといういでたちであった。
「さて、それじゃぼちぼち行こうか。この密書を殿の元へ早く届けなくては」
ありさは下半身に手を伸ばし、そっとふんどしに触れた。
和紙の感触が伝わってきた。
疾走中に大事な密書を落とさないようにと、ふんどしの内側に縫いつけておいたのだ。
ありさは再び林道を走りだした。
「ん……?」
数十歩走ったところで、ありさはふと藪の中に何やらかすかな気配を感じた。
その気配が生き物であることを確信したありさは手裏剣を握った。
握ったまま藪の中に注意を払いながら再び駆けだした。
ありさの使命は、ここで交戦し無駄に時を費やすことではなく、一刻も早く幸村の元に密書を届けることにある。
避けることができるならば余分な戦いは避けて、逃げることに専念する方が忍びとしては優秀なのだ。
ましてや相手が敵ではなく獣であるなら殊更だ。
ありさは自慢の脚で大地を蹴り一段と加速した。
(……!?)
しかし不思議だ。
先ほどから漂う気配は一向に消えない。
いくら走っても執拗に着いてくる。
速さを自負する自分と対等に駆ける者が現れたというのか。
いや、やはり獣か。
姿を見せない敵に、ありさは苛立ちを覚えた。
(むむっ、私に攻撃を仕掛けてくるつもりだね。そうは行かないよ)
ありさは突然立ち止まり握っていた手裏剣を打った(手裏剣は「投げる」ではなく「打つ」と言う)。
(ぐぇ~っ!!)
悲鳴は人のそれではなく明らかに獣のものであった。
「仕留めたかっ!」
ありさは草むらをかき分け、林の中へ入っていった。
木立の少し奥に一匹の獣が血を流して横たわっていた。
それは狼だった。
手裏剣は見事に狼の眉間を捉えていた。
致命傷になったのか狼は既に息が絶えていた。
「狼だったのか……可哀想なことをしたが、これで一安心だな」
ほっと一息着いたその時、ありさのそばを手裏剣が横切った。
手裏剣は大木にぐさりと突き刺さった。
「うわ~~~っ!何者だ!」
草むらにいては不利だと考えたありさは再び駆けだした。
少しでも広い場所に行って敵を迎え撃とうと言うのである。
しばらく駆けると、まもなく広場が現れた。
(ここなら敵の姿が見えるから対等に戦える……)
苦無を構えるとすぐに黒装束の男たちが現れた。
前から二人、左側から一人、右側から一人、後ろからも一人……
(ふっ……敵は五人か……)
広場の中央に立つありさと、それを円形にとりかこむ黒装束の男たち。
いでたちから男たちはおそらく忍びであろう。
「おまえたちは何者だ!」
「ふふふ……おれたちは『草』だ。と言ってもおそらく知らぬだろう。真田のくノ一ありさよ」
「むっ、私を知っておるのか?」
「当たり前だ。江戸城からずっと貴様を追いかけてきたんだ」
「な、なんだと!?私に追いつくとは、なかなかの俊足だな。褒めてやるぞ」
「ふふふ、余裕だな。だがその余裕ももうすぐ終わりだ」
「なぜ私を襲う?」
「江戸城で密書を盗み出しだろう?それを返してもらう」
「そんな物知らぬ」
「ふん、では貴様を倒して取り返すまで。覚悟!」
続く→くノ一ありさ~淫蛇の森~ 第二話 「伊賀忍軍」
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