第3夜 なんちゃってカップル
なんちゃってカップル

 高校時代の同級生良美と結婚した主人公清は夫婦仲円満だが子宝に恵まれず、おまけに相手に性的欲求を覚えない倦怠期を迎えてしまう。困った二人は高校時代の情熱を取り戻すべく昔の制服を着て廃校となった母校に忍び込み、懐かしい教室で性交を試みる事に。ところが、思い出してウットリした良美の口からは他の男の名前が…… (4494字)

「懐かしいね、深沢君……もう、笑わないでよ」
「ごめん、つい……」
「私の格好見て笑ったんでしょ」
「いやそうじゃなくて、深沢君なんて呼ばれたの久しぶりだなと思って」

 私は高校の制服を着た良美を見てつい笑ってしまった。でもそれは格好がおかしかったからではない。「ホントに?深沢君」などと、良美が高校時代の呼び方で私を呼んだのがおかしかったのだ。20代後半に入った良美だが、高校時代のブレザーの制服がおかしくはなかった。むしろ、意外に似合っていていつもより魅力的に見え、素直に感心していたくらいだ。

 私は深沢清。大学を卒業し地元の企業に就職してすぐ、高校時代から付き合っていた良美と結婚して5年が立つ。今私たちは一緒に通っていた母校の、同じクラスだった教室に足を踏み入れた所だ。

 良美と私は3年生の時に同じクラスになり、ある事がきっかけで付き合うようになったのだ。そのきっかけとは何と数学の授業だった。私達の担任の数学の先生は面白い人で、クラスの生徒を2人ずつペアにして、数学が得意な方が苦手の方に教えるようにと、指導していたのだ。

 ちなみにこの高校は都会から離れた田舎の高校で、成績優秀な男子はたいてい遠くの町にある進学校に下宿して通うので女子の数が多く、男子は私のような成績が並以下の人間か、ボンクラの不良ばかりという高校だ。私は一浪してやっと三流の私大に合格したくらいで、決して勉強が得意だったわけではないのだが、数学だけはそこそこ出来たのだ。

 で、先生が教えてやれ、と組ませた相手が良美だったと言うわけだ。私は引っ込み思案な人間でその時まで女の子と付き合った事もなかったが、同じクラスの真弓ちゃんと言う子が好きで密かに狙っていたので、良美と組まされた時は正直大いにガッカリしたものだった。良美は当時眼鏡を掛けてお下げ髪にした地味で大人しい子で、私の目には全く魅力的に映らなかったからである。

 そして自分の中では得意だとは言え、人に教えるほどではない私に数学を教える事など出来るのだろうかと思ったら、良美は真面目そうな外見なのに学校の勉強はサッパリだった。どうやら小学校の算数でもうつまずいていたらしく、ごく簡単な計算でさえしょっちゅう間違えてしまう良美に高校の数学を教えるのには、ほとほと閉口したものだ。しまいには良美の方が気の毒がって、

「深沢君、ごめんね、ごめんね……」

 と泣きそうな顔で謝って来る始末で、私はこんなバカと組ませた先生を恨んだものだ。が、その良美をこうして今最愛の妻としているのだから、人生はわからない。

 もちろん良美には言ってないが、私は夏前に真弓ちゃんに告白してアッサリふられてしまった。良美との放課後の勉強会は相変わらずの調子で続いており、真弓ちゃんの替わりというわけではないが、次第に素直で性格の良い良美にひかれるようになり、自然と男女の付き合いが始まったと言うわけだ。

 実際良美は学校の勉強が出来ないだけで、私にはもったいないような良きパートナーである。共働きなのに家事の一切を立派にこなし、常に私を立ててくれる。高卒で就職しもう10年近く勤めている会社での給料も私より上なのだ。さらに高校時代はくそ真面目に見えてわからなったのだが、彼女は眼鏡を外し髪型も変え化粧もするようになると、十人前以上の容姿の持ち主でもあったのだ。彼女の魅力がわからなかった高校時代の私は、目が曇っていたと言うよりない。

 付き合っていた頃を合わせて10年以上になるが、私たちはケンカ1つした事がない。良美が常に一歩引いてくれるからだが、彼女は最近の言葉で言うと自称「どM」だそうで、私の言う事なら何でも従うのが嬉しいらしい。もちろん私は良美を愛しているから、そんなひどい事をしようとは思いもしなかったが。

 私たちの唯一の悩みは未だに子宝に恵まれない事だった。彼女はきっと理想的な母親になるだろうし、私たちも両家の親も望んでいるのに、どうしても出来ないのだ。性生活も普通に送っているし、病院で診察してもらってもお互いの体に何の問題もないのに、だ。

 そしてこの所大きな問題が浮上して来た。私のペニスが良美になかなか欲情しなくなって来たのだ。決してインポになったわけではなく、普段は普通に勃起するし、まだ十分に若若しい体の良美にも何ら不満はないのだが、いざ事に及ぼうとするとなかなか硬くなってくれないのだ。良美はそんな私をバカにするような事は一切なく、刺激的な下着などを着用して手を使い口を使って私に奉仕し、辛抱強く勃起を待ってくれるのだが、結局使い物にならなかったり、勃起しても硬度が不十分だったりして途中で白けてしまう事もあった。いわゆる「倦怠期」に入ってしまったのではないか、と言うのが2人で話し合った結論である。

 そして「倦怠期」を克服するために、何か変わった事をしてみようと話し合って、良美が提案したのが2人が出会った高校時代の制服を着てセックスをしてみようというコスプレであり、話が盛り上がってとうとう母校にまでやって来たのである。

 言い遅れたが私たちの母校はつい数年前過疎化の影響で廃校になり、今は誰でも出入り自由なまま放置されている。日曜の昼下がり、久しぶりに母校を訪れた私たちは、3年生で一緒だった思い出の教室に入ってみたのだ。するとほとんどあの頃のままのような黒板と机が並んでいて、私たちは懐かしさを噛み締める事になった。

「ねえ、深沢君の机、ここだったよね?」

 嬉しそうにそう言って席に座った良美を見て、これだけでもこんな面倒な事をした甲斐があったように私は感じた。何しろ今でも私は良美の事が大好きで、彼女の喜びは私の喜びでもあるのだ。こんなにコイツの事が好きなのに、どうして勃たないんだ?と今さらのように良美に反応しなくなったペニスに罪悪感さえ覚えていた。

「えっと、お前の席はここだったっけ?」
「違うよ、そこは確か中下さんだよ、もう!」

 私はあっと思った。何と言う事だろう。うろ覚えだった私の記憶は、あの真弓ちゃんの席を示していた。良美は、私が彼女に告白してふられた事は知らないはずだが、ちょっと拗ねて見せる三十路手前の「なんちゃって」女子高生の姿は何とも可愛らしく私の目には映っていた。良美はとても物持ちの良い女性で、何と卒業後10年たった高校時代の制服をタンスの奥から引っ張り出して着ている。私の方は手持ちの中から一番それらしく見える黒のズボンをはいているだけだが。

「私の席は、ここだよ……」

 そう言ってその席に座った良美は、往事を懐かしむかのように目を閉じていたが、それからとんでもない事を言い出した。

「ね、ねえ、深沢君。私のスカートめくってみて」

 もう「深沢君」はやめろよ、と思ったが、それよりあの大人しい良美がそんな事を言い出したのに私は面食らった。が、そもそも私のペニスが勃起しないのが全て悪いのだ。何だか思い詰めたような瞳をウルウルさせている良美に促されて、私は唇を舐めると椅子に座った彼女の側に寄り、思い切ってスカートをめくってみた。するとまるで本物の女子高生みたいな純白のパンツが目を焼いた。しかも真っ白いムチムチと熟れ切ったナマ脚である。まだガキっぽい女子高生と違い、三十路目前の女盛りの女性のそんなロリっぽい格好は、見るからに淫らで扇情的だった。



「羞ずかしいよお……」

 良美は自分からスカートをめくれと言ったくせに、顔を真っ赤に染めて体をくねらせながらそんな事を言ったが、私はまるで高校時代にトリップしたかのような新鮮な興奮を覚えていた。これが私をその気にさせるための演技だとしたらアカデミー賞ものだった。もうスカートをめくり上げたままの手が動かせなくなり、目は良美の子供っぱいパンツとナマ脚に釘付けだった。そして私は、たしかにググッと股間に頼もしく力がみなぎり始めたのを感じていた。

 ところが、次の瞬間、それこそトリップしたようなアブナイ表情をウットリと浮かべて目を閉じていた良美の口からは、意外な言葉が洩れていた。

「田島君……」
「田島って誰だ?」

 私は最初、それが誰の事かわからず一変に冷水を掛けられたような気分になっていたが、良美は私の手を握ると何とそれをパンツに押し当てて来た。

「ね、ねえ、私のパンツビチョビチョになってるでしょ」

 確かに良美のロリっぽい白パンツはまるで小学生女子がおもらしでもしたかのようにグッショリ濡れていたが、私はそれより良美の大胆な行動に驚きを隠せなかった。校舎内は無人のようだが、窓の外では子供が遊んでいたりするのだ。

「あなた、ごめんなさい。私、田島君の事を思い出して、こんなに濡らしちゃったの」

 ここで良美が話してくれた内容はこうだ。田島と言うのは3年に上がる前に暴力事件を起こして退学した不良だったが、良美は以前からこの男と付き合っていて、3年になっても付き合いが続いていたと言うのだ。しかも付き合い始めたきっかけは、田島にレイプされた事だったと言うから驚いた。ところが大人しい良美はそれを誰にも言えず、その後も田島に付け回されて、セックスの相手をさせられていたらしい。自ら「どM」だと話す良美らしい話だ。

「深沢君、ごめんね、ごめんね……」

 私の手を濡れまみれたパンツに押し当てながらそう繰り返す良美の口調は、数学がわからないでベソをかき私に謝っていた昔の彼女のままで、高校時代の記憶がオーバーラップした私は、いつになく彼女を抱いてやりたいという強い衝動を覚えていた。田島なんて関係ない。今は私の愛する妻の良美なのだ。

「ねえ、おわびに、私にご奉仕させて」

 良美はそう言って立ち上がると、私を逆に椅子に座らせ、ズボンのファスナーを下ろし始めた。

「お、おい、良美……」

 さすがに窓の外でチラホラ見える子供たちが気になり、私はしどろもどろになったが、彼女のやりたいように身を任せてやった。良美が優しい手付きで取り出したペニスは、この所彼女とのセックスでは経験出来なかった力強い脈動を示していた。

「あなた、嬉しい……」

 愛する良美が目に涙を浮かべながらゆっくりとペニスを口に含んでくれると、私の興奮は極に達したが、彼女がウットリと目をつむり幸せそうな表情を浮かべながら、わざとかも知れないがこう言ったのには参ってしまった。

「田島君……」

 私はそこで乱暴に良美を突き放すと、

「何が田島だよ!」

 と吐き捨てるように言った。そして

「あなた、ごめんなさい! どうか私を罰して! こんな私にきついお仕置きを下さい!」

 と泣きながら懇願する良美を教室の床に押し倒すと、劣情に膨れ上がったペニスで彼女を乱暴に貫いていったのである。良美は、泣き声だかよがり声だかわからない大声を上げながら私をしっかりと迎え入れ、私たちは新婚当初にもなかったような激しいセックスに突入していた。

 なぜ良美がこの時、田島の名前を口にしたのかわからない。が、私には彼女を責める気持ちはさらさらない。なぜなら私も、荒々しく良美を犯しながら、なぜだか真弓ちゃんを思い浮かべ犯しているような気になっていたからである。

 ~おしまい~


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